コンクリートのフレッシュ性状が硬化コンクリートの品質に与える影響の把握

研究の背景と目的

 コンクリート構造物の劣化進行は,同一配合で打設された構造物であっても,部材の位置によってばらつきが非常に大きく,場合によっては設計で想定した劣化の進行を大きく上回る場合があることが報告されている.これは,施工時の材料分離による硬化品質のばらつきや,環境条件によって作用が異なることが原因とされている.施工時の材料分離に着目すると,品質変動に影響する材料分離には,打込み・締固めの際に生じる充塡に伴う材料分離やブリーディングに分類される.しかし,これらの材料分離のメカニズムは明確になっておらず,さらには,材料分離の程度が硬化コンクリートの品質に与える影響も明確になっていない.
 本研究では,コンクリートのフレッシュ性状が硬化コンクリートの品質に与える影響を把握することを目的としている.このため,次の3つの項目について検討している.項目1)では,充填時のコンクリートの挙動を物理的に解釈し,項目2)で検討する材料分離の程度を,項目1)の結果および材料・配合から得られる物理的性質を用いて解釈する.最終的には,項目3)で硬化コンクリートの品質の変動の程度を把握し,項目1)および2)の結果を用いてそのメカニズムについて考察する.

 1)コンクリートの粘性評価に関する検討
 2)フレッシュコンクリートの材料分離とそのメカニズムの把握
 3)材料分離が硬化コンクリートの品質に及ぼす影響の把握

1)コンクリートの粘性評価に関する検討

 コンクリートの流動や材料分離は,コンクリートの粘性と関係あるとされている.しかし,既存の粘性評価手法である回転粘度計等の測定方法は問題が指摘されている.このため,変形の学問であるレオロジーを参考に,実際の流動挙動に近いスランプ試験に着目したコンクリートの粘性評価手法を提案し,材料・配合と粘性の関係を把握することを目的としている.また,高流動コンクリートのように十分な変形性を有するコンクリートの場合は,スランプ試験に着目することで粘性が算出できるが,普通コンクリートのように振動締固めを前提としたコンクリートの場合は,振動締固めを考慮した粘性を算出する必要がある.
 現在,自重で十分な変形性を有するモルタルや高流動コンクリートの変形を物理的に解釈することで,スランプフローの経時変化から粘性を算出する手法を構築している(図-1,論文リスト3)).構築した式はスランプフローの経時変化を再現できており,算出される粘性も回転粘度計で算出される粘性と同程度の値が確認されていることから,本手法はモルタルの変形性を表現できていると考えられる. 今後,上記した自重による変形の式に振動締固めの影響を考慮することで,振動締固め時の粘性評価手法を構築し,材料・配合とコンクリートの粘性の関係について検討を進める予定である.













論文リスト
1) 橋本永手,西村和朗,江口康平,加藤佳孝:フロー試験の物理的解釈に基づくセメントペーストの粘性評価手法,土木学会第71回年次学術講演会,pp645-646,2016.9
2) 増谷直輝,西村和朗,橋本永手,加藤佳孝:モルタルの変形モデルを用いた粘性評価の基礎的検討,第44回関東支部技術研究発表会,V-55,2017.3
3) 西村和朗,増谷直輝,加藤佳孝:加振下の変形挙動に着目したフレッシュコンクリートの粘性の評価,第71回セメント技術大会,1221,2017.5

2)フレッシュコンクリートの材料分離とそのメカニズムの把握

 コンクリートが硬化に至るまでの材料分離には,締固めによる材料分離や,鉄筋障害による材料分離,ブリーディング等が考えられる.締固めによる材料分離は,振動締固めによって液相と固相間の付着力が低下することで生じ,その程度はペーストおよびモルタルの粘性によって変化すると考えられている.また,ブリーディングは材料の密度が異なることによって各材料の沈降速度に差が生じ,材料分離する現象とされている.この様に,材料分離の現象に関する議論はなされているものの,材料分離を物理現象に基づいた定式化された例はほとんどない.このため,材料分離の程度を実験的に把握し粘性や材料の物理的特性の関係を整理することで,材料分離のメカニズムを把握すること目的に検討している.
 振動締固めによる材料分離に関しては,供試体から1~8の位置のコンクリートを採取し洗い分析試験することで,各粒径の骨材の分離程度の定量的に把握した(図-1,論文リスト14)).なお,図-1右図の縦軸は各配合の採取位置を,横軸は骨材の体積割合を表している.分離した骨材の多くは粗骨材であることが確認できた.さらに,いずれの配合でも,骨材量に変化があったのは最上層および最下層であった.
 ブリーディングに関する検討は,単位面積当たりの水量(ブリーディング量)と底面寸法の関係について検討した(図-2,論文リスト9)).底面寸法の増加に伴いブリーディング量は増加した後,一定量に収束することが明らかとなった.このことから,ブリーディング量が異なる領域が少なくとも3つあることが考えられ,その3つの領域は図-3に示すような関係性になると考えられる.
  今後,項目1)と併せて,粘性や材料の物理的特性と材料分離の関係について検討を進める予定である.






































論文リスト
1) 三田勝也,加藤佳孝:型枠形状の違いがブリーディング水の発生機構に及ぼす影響に関する実験的検討,コンクリート工学年次論文集,Vol.34,No.1,pp.1198-1203,2012
2) 三田勝也,加藤佳孝:型枠寸法がブリーディング水の発生パターンに及ぼす影響,土木学会第67回年次学術講演会,Ⅴ-600,2012.9
3) 鈴木拓馬,三田勝也,加藤佳孝:型枠界面を上昇するブリーディング水の発生機構に関する実験的検討,土木学会関東支部第40回技術研究発表会講演概要集,V-36,2013.3
4) 三田勝也,加藤佳孝:型枠界面がブリーディング水の発生機構に及ぼす影響,第67回セメント技術大会講演要旨,pp.12-13,2013.5.13
5) 三田勝也,加藤佳孝:ブリーディング水の発生機構に型枠断面寸法が及ぼす影響に関する実験的検討,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.35,No.1,2013
6) 三田勝也,加藤佳孝:型枠界面におけるブリーディング水の挙動に及ぼす要因に関する実験的研究,土木学会第68回年次学術講演会講演概要集,V-559,2013.9.
7) 三田勝也,加藤佳孝:細骨材が型枠境界のブリーディング挙動に及ぼす影響に関する実験的検討,土木学会第69回年次学術講演会講演概要集,pp.719-720,2014.9
8) 三田勝也,加藤佳孝:領域分割による型枠界面のブリーディング水計測に関する実験的検討,コンクリート工学年次論文集,Vol.37,No.1,pp.1081-1086,2015.7
9) 三田勝也,加藤佳孝:型枠界面に生じるブリーディング水の挙動に関する実験的検討,土木学会論文集E2,Vol.71,No.4,pp385-397,2015
10) 三田勝也,西村和朗,加藤佳孝:型枠界面に生じるブリーディング水の挙動に関する実験的検討,「コンクリートのブリーディング制御」に関するシンポジウム,pp.93-100,2016.3
11) 西村和朗,加藤佳孝:流動性および材料分離抵抗性の評価に関する基礎的検討,コンクリート工学年次論文集,Vol.38,No.1,pp1539-1544,2016.7
12) 西村和朗,橋本永手,加藤佳孝:振動締固めがフレッシュモルタルに与える影響,土木学会第71回年次学術講演会,pp719-720,2016.9
13) 戸田晧,西村和朗,加藤佳孝:振動締固めに伴うフレッシュコンクリートの材料分離に関する実験的検討,第44回関東支部技術研究発表会,V-52,2017.3
14) 西村和朗,加藤佳孝:振動締固めによる材料分離およびブリーディングが硬化コンクリートの表層透気性に与える影響,コンクリート工学年次論文集,Vol.39,No.1,pp1423-1428,2017.7

3)材料分離が硬化コンクリートの品質に及ぼす影響の把握

 振動締固めの時間が変化することで硬化コンクリートの品質が変化することを確認している(図-1,論文リスト10)).これは,上記したような,充塡に伴う材料分離やブリーディングによってフレッシュコンクリートの配合が変化したことが原因と考えられる.しかし,材料分離による配合の変化と硬化コンクリートの品質の関係を定量的に検討した例は殆どない.以上のことから,振動締固めによる材料分離およびブリーディングによる各材料の変化量を定量的に把握する試験方法を提案し,その結果と硬化コンクリートの品質を比較することで,材料分離が硬化コンクリートの品質変動に影響を与える要因を把握することを目的としている.
  振動締固めによる材料分離と表層透気性の関係性に関しては,項目2)の図-1の粗骨材量の変化と鉛直方向に領域を4分割した表面透気試験の結果を比較することで,振動締固めによる粗骨材量の変化と表面透気性の変化の関係を定量的に得た(図-2,論文リスト13)).粗骨材量の変動割合(=測定位置の粗骨材の体積割合/締固め前の粗骨材の体積割合)が増加(最下層),もしくは変化していない場合の表層透気係数比(=各測定位置の表層透気係数/表層透気係数の平均値)は概ね1程度だが,粗骨材量の変動割合が減少した場合(最上層)の表層透気係数比は1と比較して著しく大きくなることが分かった.
 また,ブリーディング量と表層透気性の関係性に関しては,ブリーディング量と測定高さ考慮した結果と表面透気試験の結果を比較した(図-3,論文リスト5)).Blh(ブリーディング量×高さ)が2以下ではkT比(=各測定位置の表層透気係数/基準供試体の表層透気係数)に関わらずBlhは概ね1(cm3/cm2)となり,Blhが2以上ではBlhの増加に伴いkT比は線形的に増加する結果となっている.
 このように,硬化コンクリートの品質は上層部で低下していることは確認されているが,その原因は明確になっていない.今後,項目2)と併せて,それぞれの材料分離を分類して,材料分離が硬化コンクリートの品質に与える影響の検討を進める予定である.



























論文リスト
1) 早川健司,加藤佳孝:材料分離がコンクリートの表層透気性に及ぼす影響,コンクリート工学年次論文集,Vol.33,No.1,pp.647-652,2011
2) 三田勝也,加藤佳孝:ブリーディング水がコンクリート表層部の品質に与える影響に関する実験的検討,コンクリート工学年次論文集,Vol.33,No.1,pp.1385-1390,2011
3) 早川健司,水上翔太,加藤佳孝:表面透気試験による構造体かぶりコンクリートの品質評価に関する基礎的研究,土木学会論文集E2,Vol. 68,No.4,pp.385-398,2012.12.
4) 早川健司,加藤佳孝:かぶりコンクリートの品質に及ぼす配合および施工方法の影響,土木学会論文集E2,Vol. 68,No.4,pp.399-409,2012.12.
5) 加藤佳孝,早川健司:表面透気試験を用いた中性化に伴う鋼材腐食の耐久性設計と検査の連係に関する一考察,土木学会論文集E2,Vol. 68,No.4,pp.410-421,2012.12.
6) 樫村康介,三田勝也,加藤佳孝:振動締固めに伴う材料分離がコンクリートの品質に与える影響,土木学会関東支部第40回技術研究発表会講演概要集,V-38,2013.3
7) Yoshitaka Kato:Characteristics of the Surface Air Permeability Test and the Evaluation of Quality Variation in Cover Concrete due to Segregation of Concrete,Journal of Advanced Concrete Technology,Vol.11,No.11,pp.322-332,2013.11
8) K. Mita and Y. Kato, Experimental study on the influence of framework size and shape on the bleeding water of concrete, Proceedings of the 4th International Symposium on Life-Cycle Civil Engineering, pp.2026-2031, 2014.11
9) 黒竹光輝,加藤佳孝,三田勝也:ブリーディング水が表層コンクリートの物質透過性に及ぼす影響,第42回土木学会関東支部技術研究発表会,V-18,2015.3
10) 松田謙太,三田勝也,西村和郎,加藤佳孝:施工要因がかぶりコンクリートの物質透過性に与える影響,第42回土木学会関東支部技術研究発表会,V-34,2015.3
11) Kazuaki Nishimura, Yoshitaka Kato, Katsuya Mita, Influence of Construction Work Conditions on the Relationship between Concrete Carbonation Rate and the Air Permeability of Surface Concrete, International Conference on the Regeneration and Conservation of Concrete Structures(RCCS), 2015.6
12) 西村和朗,加藤佳孝,三田勝也:締固め時間や配筋の有無がかぶりコンクリートの品質に与える影響,土木学会70回年次学術講演会講演概要集,pp.451-452,2015.9
13) 村上大介,西村和朗,加藤佳孝:材料分離に伴う単位セメント量と表層透気性の変動に関する検討,第44回関東支部技術研究発表会,V-59,2017.3
14) 三田勝也,加藤佳孝:コンクリートの表面欠陥が塩分浸透性に及ぼす影響に関する実験的検討,土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造),Vol.73,No.1,93-106,2017.3