IL-1

岩倉洋一郎

キーワード:IL-1レセプターアンタゴニスト、ノックアウトマウス、関節リウマチ、自己免疫、炎症性サイトカイン

1. はじめに

 IL-1 は炎症や感染防御に重要な役割を果たす炎症性サイトカインとして知られている1)。もともと内在性発熱因子やリンパ球活性化因子、胸腺細胞増殖因子、破骨細胞活性化因子などとして同定されたことからも分かるように、多様な生物活性を持つ。IL-1はマクロファージや単球、滑膜表層細胞など多様な細胞によって産生され、滑膜細胞や、血管内皮細胞、リンパ球、マクロファージなどを活性化する。活性化の結果、これらの細胞でIL-1自身や、IL-6、TNFα、IL-17,IL-8、シクロオキシゲナーゼ(Cox-2)などの種々のサイトカイン、ケモカイン、炎症性メディエーターなどの発現が誘導され、その作用によって血管の透過性が亢進したり、発熱したり、あるいは種々の炎症性細胞の浸潤を招き、炎症を引き起こす。また、滑膜細胞の増殖を促進すると共に、メタロプロテアーゼやコラゲナーゼ、破骨細胞分化因子(RANKL)などの発現を誘導し、骨、軟骨破壊に関与していることが知られている。関節リウマチ患者の関節滑膜細胞では高レベルのIL-1が作られている。

IL-1にはαとβの二種類の分子種が存在し、遺伝子は同じクロモソーム上に近接して存在する。お互いにアミノ酸レベルで25%程度の相同性しか認められないが、同じレセプターに結合することが知られている1)(図1)。他にホモロジーを持つ分子としてIL-1レセプターアンタゴニスト(Ra)が存在し、同じレセプターに結合するが、シグナルは伝えない。従って、この分子はα、βと拮抗することによってIL-1作用を調節しているものと考えられている。これらの分子は共に前駆体がつくられ、プロテアーゼにより成熟して、分泌される。ただし、IL-1αの場合は、細胞質内に多くの前駆体が存在していることが知られており、最近、これらの分子はNFκBやAP-1を活性化することによってIL-8やIL-6などの発現を誘導していることが報告されている2)

レセプター(R)も2種類存在する。タイプIRはシグナルを伝えるが、タイプIIRは細胞質内領域に欠損がありシグナルを伝えないため、IL-1Ra同様、調節的役割を果たすと考えられている1)。IL-1のIL-1RIへの結合に伴い、IL-1アクセサリー蛋白(IL-1RAcP)が会合し、MyD88を介してIRAK、TRAF6が活性化され、最終的にNFkBやAP-1が活性化される(図1)。同様のシグナル伝達はIL-18RやToll-like receptor (TLR)ファミリー分子でも見られ、これらの分子が互いに近縁であることが分かる。これらのレセプターの細胞外ドメインは異なっているが、細胞内ドメインは高い相同性を有しており、同じ相同性はショウジョウバエのTollでも認められる。興味深いことはTollの場合も同じくTube、Pelle、Dorsalといった、MyD88、IRAK、NFκBなどの機能的相同体がシグナルを媒介していることである。Tollに相同性を持つ分子は植物でも見つかっている。これらの分子はいずれも感染防御に関与しており、生体防御を担う重要な分子として、古くから存在し進化してきたことがうかがえる。最近、IL-1ファミリーに新たに4個の遺伝子が報告され、IL-18を加えると全部で8個のファミリー遺伝子が存在することが知られている3)


図1. IL-1、およびIL-1レセプターとシグナル伝達

2.免疫系におけるIL-1の役割

 免疫系におけるIL-1の機能としては、これまで自然免疫系の活性化が知られており、炎症の誘導はその代表的な機能である。また、マクロファーに作用してNO産生を誘導することにより、感染防御に関与することが知られている1, 4。獲得免疫系においてもアジュバンド作用を持つことが知られており、実際、IL-1欠損マウスではT細胞依存性抗原であるヒツジ赤血球に対する抗体産生が低い5。逆にIL-1RaKOマウスでは抗体産生が亢進する。解析の結果、これは抗原提示細胞(APC)とT細胞との相互作用がうまくいかず、T細胞の活性化(プライミング)が十分に行われないためであることがわかった5)。これは、IL-1がT細胞の活性化に必要な副シグナル分子であるCD40リガンド(CD40L)、およびOX40の発現を誘導する役割を担っているためで、IL-1が存在しないとこれらの分子の発現は低く、逆にIL-1Raが欠損すると過剰なIL-1シグナルが入り、これらの分子の発現が高くなる(図2)5)

図2. IL-1によるCD40L、およびOX40の誘導

DO11.10マウスのリンパ節からCD4+T細胞を精製し、抗原であるOVAペプチド(323-339)と共にIL-1α/β欠損、IL-1Ra欠損、あるいは野生型脾臓由来の接着細胞と反応させた後、フローサイトメーターによってCD40L、およびOX40のT細胞上への発現を調べた。

 CD40Lは活性化CD4陽性T細胞上に発現する糖蛋白質で、B細胞上のCD40に作用してこれを活性化し、免疫グロブリンのクラススイッチを誘導する6)。CD40はB細胞だけではなく、樹状細胞や単球、マクロファージ、肥満細胞、血管上皮細胞などでも発現しており、種々の炎症性サイトカインやケモカインの発現を誘導し、マクロファージやNK細胞、血管内皮細胞を活性化することが知られている。また、重要な作用として、APC上にOX40Lを誘導したり、IL-12を誘導したりすることも知られている。

一方、OX40は活性化によりT細胞上に発現するTNFRファミリータンパク質で、APC上に発現するOX40Lと相互作用し、T細胞およびAPCを活性化する7)。OX40LシグナルはCD4およびCD8陽性T細胞を活性化し、生存を助ける。また、OX40はB細胞に作用して、重鎖免疫グロブリンの発現を誘導すると共に、免疫グロブリン分泌を促進する。また、Th1、Th2細胞のプライミングに関与することが知られており、OX40欠損マウスでは抗体産生や細胞傷害性T細胞の誘導が低下する。このように、OX40/OX40Lシステムは抗体産生だけでなく、Th1依存性の細胞性免疫や、CD8陽性T細胞による細胞傷害活性にも重要な役割を果たしている。

3.自己免疫発症に於けるIL-1の役割

 たとえ自己反応性のT細胞が抗原に出会っても、CD28からの補助刺激が入らない限りT細胞は活性化せず、免疫不応答(anergy)状態になる。通常樹状細胞のような専門のAPC以外はCD28シグナルを入れることはないので、これは自己免疫を防ぐ重要なメカニズムの一つと考えられている。ところが、CD40LやOX40シグナルはCD28刺激がなくてもT細胞を活性化するのに十分であることに注意する必要がある。このことは何らかの理由によりIL-1シグナルが過剰に入った場合は、それだけでT細胞が活性化され、免疫寛容が破綻し自己免疫を発症する可能性を示している。実際、IL-1Ra欠損マウスは自己免疫性の関節炎を自然発症するが8)、これは、IL-1、及びIL-1Raが関節滑膜で恒常的に発現しているために、IL-1RaがなくなるとIL-1シグナルが過剰に入力し、T細胞上にCD40LやOX40を誘導し、自己免疫を発症するものと考えられる(図3)10)。この考えを支持する知見として、IL-1RaKOマウスに抗CD40Lや抗OX40L抗体を投与すると関節炎の発症が抑制されることが分かっている(宝来ら、投稿中)。また、OX40LTgマウスは自己免疫性の大腸炎や間質性肺炎を発症することが知られている9)。この他、IL-1をウサギに投与した場合や、ヒトIL-1αTgマウスがやはり関節炎を発症することが報告されているが、IL-1の炎症誘導作用の他に、自己免疫の関与も考えられる。また、別の関節炎モデルであるHTLV-I Tgマウスの場合も、末梢T細胞でCD40L、およびOX40の発現が亢進しているのに対し、IL-1を欠損させると発現がほとんど認められなくなる10, 11, 12)。従って、このマウスにおいては、転写活性化能を持つTaxにより関節滑膜でIL-1などのサイトカインが過剰発現し、そのためにT細胞が過剰に活性化されて自己免疫を発症したものと考えられる。


図3. IL-1とIL-1Raのアンバランスによる自己免疫性関節炎の発症

 以上述べた知見は、IL-1の過剰産生、あるいはシグナルの過剰入力が自己免疫の一つの原因になっていることを示している。つまり、免疫不応答状態のT細胞でもIL-1が作用すると非特異的に活性化され、抗原提示細胞やB細胞の活性化に必要な副シグナル分子が誘導され、免疫反応が引き起こされるものと考えられる。IL-1が過剰に産生される要因としては、様々な微生物の感染や組織傷害による炎症反応、免疫応答、HTLV-I-TaxのようなIL-1を誘導する能力を持つ転写因子の侵入、あるいは遺伝的要因によるIL-1系の制御異常、などが考えられる。このようなメカニズムによれば感染によって自己免疫が引き起こされる場合、自己免疫の原因となる抗原と病原体との間には必ずしも免疫的交差がある必要はなく、感染に伴い産生されたサイトカインによって免疫系が活性化されることが重要である。免疫交差反応がある場合でも、単に抗原の侵入だけでは免疫寛容が破綻することの説明は難しく、感染によって誘導されるIL-1によって、過剰な免疫応答が起きているものと考えられる。自己免疫の発症において、他のサイトカインの役割はまだ良く解析されていないが、少なくともIL-1は一つの中心的な因子であり、IL-1Raはその制御因子として免疫系の恒常性維持にきわめて重要な役割を果たしている(図3)。

4.おわりに

 以上述べたように、IL-1はそれ自身、あるいは下流でIL-17やIL-6,TNFαなどの発現を誘導することにより、炎症を誘導する13。また、獲得免疫系を刺激し、自己免疫の発症にも深く関わっている。さらに、滑膜増殖や骨・軟骨破壊に関与し、関節リウマチの病態形成に直接関与している。それだけではなく、IL-1は中枢にも作用し、発熱を誘導するばかりでなく、視床下部?下垂体?副腎系路(HPA axis)を介して、グルココルチコイドの分泌制御にも重要な役割を果たしている14)。このほか、痛みや食欲などにも関与していることが知られており、関節リウマチに伴う全身症状の多くにIL-1が関与しているものと考えられる。従って、IL-1は関節リウマチ治療の重要な標的となり得る。実際、コラーゲン誘導関節炎モデルや、HYTLV-ITg関節炎モデルにおいてIL-1を欠損させると、発症率が大きく低下することが示されている12。現在、関節リウマチ患者にIL-1Raを投与して治療する試みが行われており、近い将来市販される見通しが高い。体内での半減期が短いことが難点であるが、反面、治療中感染症にはかかりにくいと言われている。半減期を長くする試みや、中和抗体を治療薬とする試みなども行われており、将来、関節リウマチの重要な治療薬の一つとなることが期待されている。

IL-1ノックアウト(KO)マウス

IL-1α KOマウス、IL-1β KOマウス、IL-1α/β ダブルKOマウス

テレピン油による発熱反応と視床下部-下垂体-副腎軸(HPA axis)の活性化は、IL-1β、IL-1α/βKOマウスでは強く抑制されたが、IL-1αKOマウスは野生型と同程度に誘導された。従ってこのストレス応答には、IL-1βが主要なメディエーターとして機能していることを明らかにした(Horai et al., 1998)。
抗原特異的な抗体産生、T細胞の活性化にIL-1が重要な役割を果たすことを明らかにした(Nakae et al., 2001)。
TNCB誘導接触型過敏症反応(CHS)は、IL-1βKOマウスでは野生型と同様に誘導されたが、IL-1α、IL-1α/βKOマウスでは、同程度に抑制され、TNP特異的なT細胞の増殖応答が低下していることを明らかにした(Nakae et al., 2001)。またメチル化BSA(mBSA)誘導遅延型過敏症反応(DTH)においては、IL-1α/βKOマウスでは抑制されたが、IL-1α およびIL-1β KOマウスは野生型と変わらなかったことから、IL-1αとβが相補していることが示唆された(投稿中)。
リステリア菌に対して、IL-1α、IL-1α/βKOマウスは感受性を示した(未発表)。
以上のノックアウトマウスを用いた解析結果より、IL-1α、βは、これまでよく似た作用を示すと考えられていたが、炎症反応や免疫応答の誘導系によってそれぞれ特有の役割を持つことを明らかにした。

IL-1レセプターアンタゴニスト(Ra) KOマウス

IL-1Ra KOマウスは、BALB/c背景において、滑膜増殖、細胞浸潤、骨・軟骨破壊、パンヌス形成を伴う慢性関節炎を自然発症する。この関節炎の発症率はほぼ100%であり、その病理像はヒト関節リウマチに酷似している(Horai et al., 2000)。原因の一つとして、T細胞性の免疫異常が示唆され、また自己抗体産生が認められる。
関節炎以外の自然発症の炎症として、冠状動脈の血管炎がも認められる。
また、このマウスは、離乳後の体重増加が抑制されており、白色脂肪が少ない。食後の脂肪の蓄積に欠陥がある(投稿中)。テレピン油による発熱反応は、野生型よりも亢進している(Horai et al., 1998)。
LPSによるエンドトキシンショックには高感受性であり、リステリア菌感染に対しては抵抗性を示した(未発表)。

参考文献

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3. Smith, D.E., Renshaw, B.R., Ketchem, R. R., Kubin, M., Garka, K. E., Sims, J. E.: Four new members expand the interleukin-1 superfamily. J. Biol. Chem., 275,1169-1175, 2000.

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14. Horai, R., Asano, M., Sudo, K., Kanuka, H., Suzuki, M., Nishihara, M., Takahashi, M., and Iwakura, Y.? Production of mice deficient in genes for IL-1a, IL-1b, IL-1a/b, and IL-1 receptor antagonist shows that IL-1b is crucial in turpentine-induced fever development and glucocorticoid secretion.? J. Exp. Med., 187, 1463-1475, 1998.

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