2002年度の講義
このページはだれのために書いてるんだろう.
たぶん一年に一度, 講義についていろいろ考えるのも意味があることだろう.
とすれば自分のためということになる.
何年やっても講義は難しい. (正確に言えば動機付けの何もない
人に対して講義をするのは難しい).
- 前期
- 線形代数学第一
講義概要
今年の線形代数は教科書を変更した. この教科書はコンパクトで良くまと
まっている. 連立一次方程式の部分などはとても講義がしやすいと
思う.
しかし後半は説明を省略しすぎ. よほど説明を補わないとい
けない. 演習問題のレベルは適切だと思うが, 数は少ない.
もちろんいろいろな説明を補うわけだが,
学生はわたくしより印刷物を信仰しているので, 印刷物に書いてないことは軽視
する傾向にあって, なかなか難しいのだ. 著者はたぶんページ数制
限のもとで執筆していてたいへんなのだろう.
工学系の学生には計算問題のたくさんあるアメリカ式の教科書のほうがあってい
る気がする.
- 代数と幾何学
講義概要
三年生のための選択科目. 例年だと工学系の学生に配慮して, 暗号とかそういう
応用に進みやすい話をするのだけど, 今年はすぐには応用に結び付かない題材を
選んでみた. 選択科目なのでいちおう数学が嫌いな学生は好き好んでとらないであろ
うからあまり遠慮しなくてもよいと考えたのだ.
微積分, 線形代数しか数学を知らない学生でもわかる題材を選んできちんと
証明をつけて進む授業をやろうというのが目論見である.
三年生だから, 自分で論理をじっくり追う訓練も必要だろう.
ただそれだけでは学生は退屈してしまう
ので, 数値例を計算したり, 計算から法則を予測させたりといった工夫はした.
約50人が登録. 単位取得者約30人.
ちゃんとわかって聞いてくれた人が数人いるだけで講義をする側としては報われ
た気になるもの. とても良くできる人も2人いた.
来年も同じ内容で講義をする予定.
- 函数論 (夜間主コース) 講義概要
去年の反省をいかして教科書を変えてみた. これは正解だった. 内容が
精選されていてすべてを講義しても毎時間演習ができた. 毎時間, 講義と演習で
半分ずつのペースで進んだが進み方はこれで良かったと思う.
夜間の学生の中には非常に熱心な人もいて, 教えがいはあるのだが, その反面,
おしゃべりをする人も多い. 微積分もわかっていないのに関数論の
授業を受けるのは苦痛であることは理解するが, 僕としては
私語などを許すことはできない.
ちゃんと聞いている人もいるんだから, そういう人のことも考えてほしい.
感情的になってしまったときもあって, それについては反省はするしかない.
- 後期
- 線形代数学第二
講義概要
同じ講義を何度かやっていると, だんだんと教える内容が少なくなる傾向に(少
なくとも僕は)ある. ついつい丁寧になったり, 復習の量を多くした
りするのが原因である. これは良いことなのだろうか.
さて前期は要所,要所に証明をつけていたのだが,あまりの無関心な様子に, 後期は
証明を大幅に削減. 計算と直接結び付くものに限ることにした. それでも
たくさんの概念が次から次に出てくる後期は学生にとっても負担のようだ.
毎時間, 開始後20分の復習小テストをやったら, 出席は良くなったけれど,
理解が深まったのかはわからない. どうも返却してもあまり復習にも使われてい
ないようだ.
数学の授業というのは演習の時間以外はたいがい
教師は板書をしているし, 学生はそれをノートにとっているわけだ.
問題は時間をかけて写したそのノートがあまり活用されないことである.
前期のところにも書いたけれど, 学生の印刷物信仰はすさまじいものがあって,
たとえば, 一通り話をして, 例題を解いてみせて,
問題をだして, これは例題のまねをすれば解けるよといって演習を始めると
多くの学生が教科書を読み始めるのだ. むなしさを覚える瞬間である.
さてどうするか. 板書をやめるか. たとえば重要事項を書いたプリントを最初に
配ってそれを読んで問題を解いたらかえって良いことにする. 教師の役目は
質問を受けることだけである.解答は帰りに渡す
わけだ. これだとお互い時間の無駄がないんじゃないかとも思う.
公文式大学である.
あるいは高校生ぐらいからの線形代数に至るまでの教科書, 参考書を何冊も
教室においておく. 学生は講義の時間の間, 自分のレヴェルにあわせて勝手に読
む. 自分のレヴェルにあわせて演習問題を解いて帰る. 線形代数の教科書が
どれか終わったら単位認定ということになるわけだ. 英語ではこういう授業を
している人がいる. これは数学における
多読授業 である. 教師の仕事はレヴェルのアドバイスだけ.
何だか数学の先生なんて数学科以外には要らないような気がしてきた.
- 数学演習第二
講義概要
一年半ぶりの数学演習担当.
解答の作成などに時間はとられるが, 学生が問題を解けるようになるのをみるの
ことで報われる部分もある.
クラスによってずいぶんレヴェルに差がでてきて,問題を作るのも, 合否基準を
考えるのも難しい部分が出てきたように思う.
それでも微積, 線形の講義に比べれば, 自分で手を動かさなくてはいけない時間
が長いだけ学生にも役に立っているのではないか.
関係ないが, TA が予習してないのに腹がっ立った. できないの
ならちゃんと準備してこなくてはならない. TA 制度というのは単科大学では
うまく機能しない制度なのでないかと常々思う.
アメリカにはどんな小さな大学にも数学を専攻する
大学院生がいて, その能力は別としても, 自分の教育経験の場として責任と自負を持っ
て, TA をやって, 生活していることが大きな違いなのだ.
かたちだけアメリカをまねしてもうまくいかないことの良い例になってしまって
いる気がする.
-
情報数理第一 (大学院)
講義概要
ほぼ去年と同じ講義. 予定していた多項式の因数分解は出来なかった.
そのかわり夏に出た AKS のアルゴリズムの解説と有限体上の多項式の
零点を求めるアルゴリズムを話した.
いろいろなプログラムを実際に講義で
動かしてみたら好評のようであった. プロジェクタを講義に使ったのは
はじめてだったが有効性を確認した次第.
10人ほどの大学院生とともに, 太田和夫先生 も毎
回熱心に講義に出てくださり,間違いの訂正までしていただいた.
毎回, 釈迦に説法という言葉が頭に
浮かんだのも事実ですが緊張して講義ができました.
どうもありがとうございました.
- 代数学IV・代数学特論III (学習院大学 学部・大学院合併授業)
講義概要
ひごろお世話になっている,
学習院の 中野先生
がフランス遊学ということで, 僕がお留守番をすることになっ
た.
はじめの予定とは違って, 楕円曲線の数論の入門の講義となっ
た. あまり難しいことは仮定できないので, お話になってしまった
ところもあったけれど, 基本的にきちんと証明をつけていく伝統的
なスタイルの講義になった.
受講生は10人ほど. 学部と大学院生が半分ずつといったところ.
僕が書いた証明を一行,一行考えながら読んでくれる学生がいるというのは
何と幸せなことか.
学生がレポートに書いてくれた感想によれば具体的な例があってよっかたという
声が多かった. こういうことは工学系の大学で教えている経験が役立っているの
だと思う.
忘れないようにノートの目次も書いておく.
- 約数
- 合同式・合同類
- Z/mZ
- 体と環
- Weierstrass 方程式
- 楕円曲線の定義
- 群構造
- E(Q)
- 法 p の還元写像
- 原始根と平方剰余
- 合同数問題と楕円曲線
- 楕円曲線の応用
- 暗号
- 因数分解
- 素数判定
- 計算機の利用
最初は Hasse の定理の初等的証明を紹介しようかとも思ったのだが, それを
苦労してやったからといって, 実りは少ないと判断してやめた.
大学院生にとってははじめの二回ぐらいは退屈だったと思う. ごめんなさい.
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