東京理科大学 理学部 応用物理学科 宮島研究室

研究内容

■CuCl単結晶及び量子ドットの作製

 塩化第一銅(CuCl)は、ワイドバンドギャップ半導体の一種であり、光励起によって生成される電子−正孔対がクーロン相互作用によって結合した状態「励起子」の結合エネルギーが大きいため、励起子の基礎研究に適した物質です。また、そのナノ微粒子(量子ドット)は、励起子の重心運動が量子閉じ込め効果を受ける「弱閉じ込め」系ナノ構造の典型的な物質です。本研究室では、
・気相成長法によるCuCl単結晶の作製
・横型ブリッジマン法によるNaCl結晶中に分散したCuCl量子ドットの作製
を行っています。CuCl単結晶は、励起子や励起子分子の励起状態の研究や、ポラリトン-ポラリトン散乱による量子もつれ光子対発生などに用いています。CuCl量子ドットについては、ドット間のコヒーレント相互作用が起こるほどの高密度な集合系の作製を試みています。

CuClの結晶構造

■量子ドット集合系における光を介したコヒーレント相互作用:超蛍光発生機構

 複数の2準位系が同一の電磁波モードと相互作用するとき、その2準位系の数に応じて輻射寿命が速くなるという現象が起こります。Dickeの超放射として知られたこの現象は、1980年代から主に原子・分子系で報告されるようになりました。そのメカニズムは、多数の二準位系が全て 励起状態にある完全反転分布であるとき、一つの蛍光がきっかけとなって全ての双極子モーメントが揃い、自発的にマクロな双極子モーメントを形成することでパルス光を放射するというものです。特にこの現象は「超蛍光」として知られるようになりました。
 この超蛍光が半導体量子ドット集合系で起こる機構を研究しています。我々はこれまで、CuCl量子ドットを用いて励起子分子状態を二光子共鳴励起することで励起子分子−励起子間に完全反転分布を形成し、超蛍光が発生することを報告してきました。さらに、原子・分子系と比べて、より超高速・超短パルスの超蛍光の発生と量子ドット特有の超蛍光発生メカニズムを探求しています。量子ドットからの超蛍光は超短パルスコヒーレント光源への応用が期待できます。また、自発的なコヒーレンス生成の現象は、凝縮系の光物理として非常に興味深いテーマでもあります。
 実験は主に、光カーゲート法による発光スペクトル時間分解分光法を用いて、発光の時間変化を捉えています。

CuCl量子ドット集合系における励起子分子発光の超蛍光的パルス発光(FM)の観測

■赤外誘起吸収による励起子及び励起子分子の励起状態の研究

励起子(電子‐正孔対)は、水素原子様のリュードベリエネルギー準位を持ちます。光学実験においては、主にその最低状態である1s状態が主に研究対象になりますが、一方1s状態から2p状態への遷移など、励起子内部エネルギー準位間の遷移過程の研究は少ない状況です。また、励起子分子(2つの励起子の結合状態) は水素分子様のエネルギー準位を持つと考えられますが、これまで研究対象となっているのはやはり最低状態であり、励起状態の研究はほとんど行われていません。
 我々は、励起子や励起子分子の結合エネルギーが大きいCuClを用いて、励起子や励起子分子の励起状態の研究を行っています。特に励起子分子について、広い空間(バルク結晶中)では2励起子が解離するような励起状態が、狭い空間(量子ドット)で閉じ込められることにより新しい励起状態が現れることが期待されます。これをバルク結晶から量子ドットまで系統的に実験することで、明らかにすることを目標としています。この研究は励起子や励起子分子のエネルギー準位の基礎的理解に重要です。また、中赤外域での新しい光学応答が期待でき、赤外光デバイスへの応用につながります。

励起子及び励起子分子の最低状態―励起状態間遷移による過渡吸収スペクトル

■半磁性半導体CdMnTeの光誘起磁化

 半導体に磁性イオンをドープした半磁性半導体は、キャリアと磁性イオンのスピンの相互作用が光学特性に影響を及ぼす物質です。CdMnTeでは、励起子とMnイオンとs,p - d 相互作用を起こした励起子磁気ポーラロンが生成されます。また、Mn濃度の空間的不均一性に起因するポテンシャル揺らぎがあり、そのため励起子が局在化します。つまり、CdMnTeでは局在励起子磁気ポーラロンが光学応答を支配しています。
 我々のこれまでの研究により、局在励起子を高密度励起にすると非線形増大発光が現れることが分かりました。我々はこれを多励起子磁気ポーラロンのハイスピン状態からの発光であろうと推測しています。現在はその発生条件と光誘起磁化の測定を行っています。この研究により、巨大光誘起磁化の発現と通常安定しない多励起子ハイスピン状態の光物性に注目しています。実験は、発光スペクトルとポンプ‐プローブ分光による光誘起ファラデー回転測定、そしてそれらの励起エネルギー依存性、励起密度依存性を行っています。

局在励起子高密度励起下での
非線形増大発光(X)

■間接遷移型半導体SiCナノ構造の光物性

 間接遷移型半導体は発光効率が非常に小さく、本来発光デバイスに向いていない材料とされて来ました。しかし、そのような材料(例えばSi)でもナノ構造にすることによって、 発光効率が増大することが報告されるようになってきています。本研究室では、パワーデバイスの材料となるSiCについて、そのナノ構造における光物性の研究を行っています。
 例えば、アモルファスSiC膜をエッチングすることでポーラス化させることで表面にナノ構造が作られた試料の発光スペクトル特性を観察しています。また、カーボンナノチューブ をSiと同時に熱することでできるSiCナノチューブの発光を観察することを目指しています。これらの研究を通して SiCナノ構造の発光メカニズム(量子化準位、表面準位との関連性など)や青色発光デバイスへの応用の可能性を探求しています。  現在は、SiCナノチューブをポリマー中に分散して、発光スペクトルを観察することを試行しています。

ポーラス・アモルファスSiCの
表面状態

研究設備

■広帯域波長可変短パルスレーザー装置

 高強度かつ波長可変のパルスレーザーシステムです。様々な物質に対して、高密度励起と共鳴励起を行うことができます。また、ポンプ‐プローブ分光、光カーゲート発光時間分解分光に用いて研究を行っています。
 構成は、モードロックTi:Sapphireレーザー(波長800nm, パルス幅約100fs,繰り返し82MHz)からの出力光を再生増幅器を通して増幅します。 この出力光は、波長800nm, パルス幅,約4ps, 繰り返し1kHzとなります。再生増幅器からの出力光を2つに分け、それぞれ、光パラメトリック増幅器のポンプ光とします。光パラメトリック増幅器では、光パラメトリック変換を利用して、赤外域で2つの波長の光(シグナル光とアイドラー光)に変換します。さらに、ポンプ光、シグナル光、アイドラー光を用いて、波長300nm - 10000nmの範囲で連続的に波長可変となります。  本研究室で使用している再生増幅器は、通常よりスペクトル幅が狭い仕様にしており(約8cm-1)、不均一広がりの大きな材料(半導体ナノ微粒子集合系、ポテンシャル揺らぎの大きな混晶系)に対して、その詳細な電子系準位とダイナミクスを明らかにするために有効なシステムです。
モードロックTi:Sapphireレーザーと再生増幅器 広帯域波長可変レーザー装置

■光源

 上述のパルスレーザーの他、発光スペクトルの励起光源としてHe-Cdレーザー(325nm)、DPSSレーザー(355nm、532nm)、半導体レーザー(405nm、450nm)、He-Neレーザー(633nm)、励起スペクトル測定の光源として使用している紫外LED(310nm)、キセノンランプや透過率・反射率測定用のタングステンランプなどがあります。

■低振動型クライオスタット

 光物性の研究では、その電子状態を明らかにするために試料を低温にして測定を行うことがあります。試料をクライオスタットに取り付け低温に保ち、光学窓を通して光を照射しています。
窓は4面ついています。石英のほか、
中赤外域の波長に対しても透過率の高いBaF2を用いています。
窓は2面です。反射スペクトル測定を想定し、
窓を大きく製作しました。

■試料作製装置

 主に、CuCl単結晶やNaCl単結晶中のCuClナノ微粒子を作製するための装置です。
上段 横型ブリッジマン法用
中段 気相成長法用
下段 ゾーンメルティング法用
真空引きとArガス封入のシステム

■分光器

 分光器とCCDや光電子増倍管を組み合わせ、発光スペクトル、透過スペクトル測定などに用いています。
焦点距離500mmの分光器。入力ポートは2つあり、1つには光ファイバーを付けています。出力ポートも2つあり、1つにはCCDを付けています。 焦点距離300mmの分光器。入力ポートには光ファイバーを付けています。出力ポートは2つあり、CCDと光電子増倍管を付けています。
焦点距離150mmの分光器。
中赤外域用に用いて、検出器はMCTを主に用いています。
焦点距離300mmの分光器。液体窒素冷却型のCCDが付いています。

■光学測定系

 宮島研究室では、光学実験をするシステムのほとんどは自分達で構築しています。特に、時間分解分光用の光学系を紹介します。
光カーゲート法:時間分解発光スペクトル測定の光学系
ポンプ‐プローブ分光:赤外過渡吸収測定の光学系
ポンプ‐プローブ分光:時間分解ファラデー/カー回転測定の光学系