領域概要

研究領域名:植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム

領域代表:名古屋大学・トランスフォーマティブ生命分子研究所・教授 木下 俊則

本領域の目的

生存に適した環境を求めて移動する動物に対し、移動しない植物は多様な環境変動に迅速に対応するために、細胞群や組織に制御システムを分散させて自律的な環境応答を行ないつつ、それらの情報を全身的な情報伝達系により統御する「自律分散型環境応答統御システム」を進化させてきました。こうした自律分散型の統御には、刺激受容部位における局所的かつ自律的な応答システムに加えて、局所的な応答を時空間的に統合するシステムが存在するはずですが、これらの分子実体はほとんど解明されていません。また、植物には乾燥や温度変化などの季節変動を長期的に記憶するシステムが存在することはよく知られていますが、その具体的な場やしくみは不明の部分が多い状況です。本領域では、局所的かつ自律的な環境応答システムの解明に加えて、動物とは全く異なる長距離シグナル伝達システム、およびそれらの情報を時空間的にキャッシュするためのクロマチン修飾による環境記憶システムの解明を通じて、植物のダイナミックな環境応答統御システムの全体像を明らかにすることを目的とします。

図.動物の中枢性環境応答統御システム・植物の自律分散型環境応答統御システム

本領域の内容

本領域では、植物科学の多様な分野の研究者が結集し、これまで個別に行ってきた「局所的・自律的応答」、「長距離シグナリング」や「環境記憶」などの研究を有機的に統合して進めることでダイナミックな環境応答統御システムの全体像を明らかにします。特に、教科書には栄養や水分の輸送器官としてしか記載されていない維管束系を環境シグナルに対する長距離シグナル伝達の場として改めて捉え直すことで、従来の植物のシグナル伝達の概念を覆したいと考えています。また、脳がない植物においても、DNAやヒストンの修飾、核内のクロマチン動態の変化といったエピジェネティクス制御を解析することで、環境刺激に対する分散型の記憶システムを備えていることを証明したいと考えています。このように植物という生き方を通して生命の多様な情報統御システムの一端を理解することは、生物が外部からの情報をどのように処理するかという、生命原理の根源的な問いにも回答の一端を提示できると考えています。

図.計画研究間での相互補完的・協調的な連携

期待される成果と意義

これまでに植物の環境応答を長距離シグナル伝達と記憶の情報処理システムの面から研究したグループは世界的に見ても例がなく、環境応答研究分野を革新的研究分野として大きく発展させる本領域は、我が国の学術水準の格段の向上・強化に貢献すると期待されます。また最先端の植物研究を進めるJohn Innes Centre・The Sainsbury Laboratory(英国)及びStanford University(米国)に共同研究拠点を置き、緊密な国際研究体制を確立することで、本領域から新たな世界の研究潮流を生み出すことが期待されます。さらに、本領域の研究から得られる知見をもとに人為的に植物の環境応答能の制御や機能改善が可能となり、地球環境変動に耐えうる植物の作出等を通じて、低炭素社会の発展や食糧増産にも寄与する基盤技術の確立に貢献することが期待されます。

キーワード

長距離シグナリング
主に植物の維管束系を介したシグナル伝達
環境記憶
主にエピジェネティック制御を介した環境情報の記憶システム

研究期間

平成27年度 - 31年度

代表者連絡先

木下 俊則
〒464-8602 名古屋市千種区不老町 名古屋大学
トランスフォーマティブ生命分子研究所(理学E館334号室)
E-mail:kinoshita*bio.nagoya-u.ac.jp(*を@に置き換えてください。)