計画研究班
本領域では、中枢神経を持たない植物が、細胞や組織レベルで分散型の応答を行う一方、それらの情報を全身的な情報伝達系により統御する植物特有のダイナミックな環境刺激伝達機構の全体像を解明し、環境応答がどのように植物の巧みな生存戦略を導いているのかを明らかにすることを目指します。
本領域では、この目的達成のために必要不可欠な8組の計画班を厳選しました。多彩な植物の環境応答の分子機構を包括的に理解するには、個別研究の集まりではなく、統合的・戦略的な融合研究領域の構築が不可欠です。そのため研究項目を分けず、8名の計画班班員が互いに協力し合う形での有機的連携研究を進め、新規な学術領域の創成を目指します。
また、研究推進に欠かせない共通大型機器や最新技術による解析を総括班に設ける研究支援センターにより全面的に支援し、効率的な研究推進を進めます。
木下班 環境刺激による気孔開度制御機構の解析
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計画研究代表者 木下 俊則 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所・教授 研究分担者 多田 安臣 名古屋大学遺伝子実験施設・教授 研究分担者 中道 範人 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 特任准教授 研究分担者 鈴木 孝征 中部大学応用生物学部・講師 研究協力者 辻 寛之 横浜市立大学木原生物学研究所・講師 -
植物の環境応答のモデル細胞である気孔孔辺細胞を主な材料に、未解明の部分の多い植物の環境応答のシグナル伝達に関わる新奇因子とその作用機作を明らかにします。さらに、様々な環境刺激に応答した気孔孔辺細胞や茎長分裂組織におけるクロマチン修飾による環境記憶システムの解析を進め、気孔開度制御や花成制御における環境記憶の生理的意義を明らかにします。また、土壌の栄養状態や環境ストレスによる気孔開度制御の長距離シグナル伝達システムの解析を行い、これらの研究を通じて、植物の自律分散型環境応答統御システムの解明を目指します。
松林班 長距離シグナリングを介した変動環境への適応機構
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計画研究代表者 松林 嘉克 名古屋大学大学院理学研究科・教授 研究分担者 望田(桑田) 啓子 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所・特任助教 -
自然界では、土壌中の窒素栄養分は極めて不均一に分布します。そのため、植物はあらゆる方向に根を張りめぐらせつつ、一部の根で窒素欠乏を感知した時に、他の根で相補的により多くの窒素を取り込むしくみを備えています。これまでに私たちは、窒素欠乏を感知した根で分泌型ペプチドCEPが発現誘導され、道管を通って地上部に長距離移行し、葉で特異的受容体CEPRに認識されることが、この長距離シグナリングの第一段階であることを見出しています。本研究では、この系をモデルとして、いかにして根における局所的な環境刺激が葉で統御され、再び植物体全体に伝達されていくのか、植物の巧みな栄養環境応答の全体像の解明に挑みます。
松永班 環境刺激によるクロマチン動態制御機構の解明
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計画研究代表者 松永 幸大 東京理科大学理工学部・教授 研究協力者 植田 美那子 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所・特任講師 研究協力者 坂本 卓也 東京理科大学理工学部・助教 研究協力者 藤本 聡 東京理科大学理工学部・研究員 研究協力者 栗原大輔 名古屋大学大学院理学研究科・特任講師 研究協力者 刑部敬史 徳島大学生物資源産業学部・教授 -
環境刺激を受けるとクロマチンにエピジェネティックな変化が引き起こされます。その変化を制御する分子メカニズムを、植物のDNA損傷ストレス(放射線や薬剤)感受性を利用することで、ヒストン修飾やクロマチンリモデリングに関与する植物のクロマチンの動態を制御する因子の同定と機能解析により明らかにします。また、環境刺激を記憶する細胞群を、クロマチン動態変化のライブイメージング解析や光学的細胞操作による機能阻害によって特定します。これにより脳がない植物における自律分散型の環境記憶システムのメカニズムをエピジェネティクスの側面から解き明かします。
杉本班 環境刺激による細胞リプログラミング制御
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計画研究代表者 杉本 慶子 理化学研究所環境資源科学研究センター・チームリーダー 研究協力者 岩瀬 哲 理化学研究所環境資源科学研究センター・研究員 研究協力者 池内 桃子 理化学研究所環境資源科学研究センター・研究員 研究協力者 玉田 洋介 宇都宮大学工学部 物質環境化学コース・准教授 -
植物細胞は一般的に動物細胞に比べて分化全能性を発揮しやすく、一旦分化した細胞が環境刺激に応答して脱分化、再分化しますが、その分子機構はほとんど解明されていません。本研究では、植物が環境情報をいかに受容、伝達し、エピジェネティックな細胞記憶を修正することによって細胞リプログラミングを引き起こすかを解明します。
福田班 植物の自律分散型情報ネットワークを支える維管束シグナル伝達の解析
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計画研究代表者 福田 裕穂 東京大学大学院理学系研究科・教授 研究協力者 近藤 侑貴 東京大学大学院理学系研究科・助教 -
本研究では、CLEペプチドと概日時計を指標に、維管束を介した局所的なシグナル伝達機構とその働き、長距離伝搬のしくみと植物個体としての情報統合の場を解明します。また、篩部細胞分化系を確立し、すでに確立した木部分化誘導系と合わせて、維管束輸送シグナルの解析を進めます。
篠崎班 乾燥及び温度ストレスに対する植物の時空間的応答と記憶の分子機構
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計画研究代表者 篠崎 和子 東京大学大学院農学生命科学研究科・教授 研究分担者 伊藤 秀臣 北海道大学大学院生命科学院・助教 -
植物は干ばつや極端な温度変化によって生存を脅かされています。本研究では乾燥や温度ストレスに対する植物の局所的応答の分子機構を解明するとともに、ストレスの長距離シグナル伝達因子が維管束を介して植物全体に情報を伝達する機構を解明したり、繰り返して起こるストレスに対する植物の長期的な記憶の機構を明らかにしたりすることで、植物の持つ自律分散型環境応答統御システムの全体像を理解します。
角谷班 クロマチン長期記憶による環境応答制御機構
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計画研究代表者 角谷 徹仁 国立遺伝学研究所・教授 -
環境や遺伝的背景を反映して遺伝子発現のON/OFF状態はクロマチン上に記憶されます。この記憶の実体はヒストンの修飾やDNAのメチル化です。DNAメチル化は特に安定な修飾であり、長期記憶としてトランスポゾンなどの反復配列の抑制に関与します。一方、植物からヒトまで多くの生物で、遺伝子のコード領域にもDNAメチル化が見つかりますが、その機能は未解明です。本研究では、ヒストンとの相互作用を介してDNAメチル化がクロマチン長期記憶として働きうることに着目し、これに影響する変異体を用いた遺伝学とゲノミクスによるアプローチで、環境に対する応答性と細胞増殖の文脈でその制御機構を解明します。
白須班 寄生植物による維管束情報ハイジャック機構の解明
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計画研究代表者 白須 賢 理化学研究所環境資源科学研究センター・グループディレクター -
植物が植物に寄生する際、両者はどのように他者の情報を得て、これを自らの情報と区別し、統御、判断、記憶、出力していくのかを、寄生成立そしてその維持の分子機構を解明することで、総合的に理解します。