研究成果 注目の論文

環境記憶統合 “注目の論文” No. 12 全身的な窒素取り込みの制御に必要な、葉から根へ移行するペプチド

  • 論文名
    Shoot-to-root mobile polypeptides involved in systemic regulation of nitrogen acquisition
    著者名(下線は環境記憶統合メンバー)
    #Yuri Ohkubo, #Mina Tanaka, Ryo Tabata, Mari Ogawa-Ohnishi, and *Yoshikatsu Matsubayashi. (#These authors contributed equally to this work)
    雑誌名等
    Nature Plants, 3, 17029 (2017) doi: 10.1038/nplants.2017.29
    http://www.nature.com/articles/nplants201729
    解説
    図1

    窒素は植物の成長に最も重要な栄養素のひとつです。植物は根から窒素栄養分を主に硝酸イオンのかたちで吸収して成長しますが、土壌中には硝酸イオンがいつも均一に十分量あるわけではありません.雨による流失や他の植物体による吸収などで,極めて不均一になっています.そのため植物は、根の一部が窒素栄養不足を感知すると、他の根で相補的に多くの窒素栄養を取り込むしくみを持っていますが、この過程には葉が司令塔として重要な役割を果たすことがこれまでの私たちのグループの解析で明らかになっていました(図1).
    すなわち,根が窒素欠乏を感知すると根の細胞がCEPというペプチドを道管の中に分泌し,これが水とともに地上部へ運ばれ葉に認識されます.これにより,根の一部が窒素欠乏であることを知った葉は,他の根で相補的に多くの硝酸イオンを吸収させるために根へ向けてホルモンを送り返しますが,今回の研究成果はこのホルモン(CEPDと命名)の実体を明らかにしたものです.

     今回の研究では,まず根に化学合成したCEPを与えた時に,マイクロアレイという手法を用いて葉の葉脈(維管束)で特異的に発現上昇する遺伝子群を探し出しました.それらの遺伝子群の中から,過剰発現させた時に根で硝酸イオン取り込み輸送体遺伝子NRT2.1の発現を上昇させるものを探した結果,2つの遺伝子を見出しました.これらの遺伝子は互いによく似ており,約100アミノ酸からなるポリペプチドをコードしていました(図2).

    図2."

    両遺伝子は野性株の葉ではCEP処理により3から8倍程度発現誘導されましたが,CEPを受容できない植物では全く誘導されませんでした.このことは2つのポリペプチドがCEPの下流シグナルであることを意味していることから,両者をCEP Downstream(CEPD1およびCEPD2)と命名しました.  次に,2つのCEPD遺伝子を壊した植物体を作製し,その窒素栄養応答を解析しました.前述したように,植物は、片側の根が窒素栄養不足を感知すると、もう片側の根で相補的に多くの窒素栄養を取り込むために硝酸イオン取り込み輸送体遺伝子NRT2.1の発現を上昇させるしくみを持っていますが、CEPD遺伝子破壊株では,この応答が起こりませんでした(図3).すなわち,CEPDは相補的な窒素取り込みの制御に関わっていることが確かめられました.また,CEPD遺伝子破壊株では,葉が黄色くなるなど典型的な窒素不足の症状を示しました.

    図3.

    それでは,CEPD遺伝子の発現パターンやペプチドの局在はどのようになっているのでしょうか.興味深いことに,CEPD遺伝子は葉の維管束の篩管側でのみ発現しており,根では検出されませんでしたが,翻訳されたCEPDペプチドは根の師管部分で明瞭に検出されました(図4).このことは,CEPDペプチドは葉から根へ師管を通って長距離移行して情報を伝えるホルモンであることを示しています.また,別の実験から,CEPDペプチドはすべての根に移行していきますが,外側に窒素栄養がある環境におかれた根だけで硝酸イオン取り込み輸送体遺伝子NRT2.1の発現を上昇させることが分かりました.以上の結果から,根の一部が窒素栄養不足を感知すると、他の根で相補的に多くの窒素栄養を取り込むしくみの根幹が明らかとなりました.

    図4.