研究成果 注目の論文

環境記憶統合 “注目の論文” No. 13 プロトンポンプの活性化を抑制する阻害剤の選抜を起点とし、気孔開口の鍵因子であるBHPの同定に成功

  • 論文名
    A Raf-like protein kinase BHP mediates blue light-dependent stomatal opening
    著者名(下線は環境記憶統合メンバー)
    Maki Hayashi, Shin-ichiro Inoue, Yoshihisa Ueno, and Toshinori Kinoshita
    雑誌名等
    Scientific Reports, 7, 45586 (2017) doi: 10.1038/srep45586
    https://www.nature.com/articles/srep45586
    解説

    植物の表皮には気孔が数多く存在し、植物はこの孔を通して光合成に必要な二酸化炭素を取り込み、また蒸散や酸素の放出など、大気とのガス交換を行っています。一つの気孔は一対の孔辺細胞により構成されており、太陽光に含まれる青色光に応答して開口します。また、暗黒条件や乾燥ストレスに応答して閉鎖します(図1)。孔辺細胞に青色光が当たると、光受容体であるフォトトロピンが活性化し、細胞内でシグナル伝達を誘導します。このシグナルにより細胞膜プロトンポンプが活性化され、その後孔辺細胞内にカリウムイオンが取り込まれることで最終的に気孔が開口します。細胞膜プロトンポンプの活性化は、気孔開口の駆動力を生み出す重要な反応ですが、青色光がどのようにプロトンポンプを活性化するのか、シグナル伝達の詳細は完全には明らかになっていません。

    図1."

    当研究グループではこれまでに、孔辺細胞のプロトンポンプの活性化を簡便に検出する方法を確立しており、一度に多検体のプロトンポンプの活性状態を調べることができます。本研究ではまず、この方法を用いて、青色光によるプロトンポンプの活性化を抑制するプロテインキナーゼ阻害剤をライブラリーから選抜しました。植物における阻害剤の標的を、動物の標的とのアミノ酸配列の類似性から探索し、最終的にRaf様キナーゼの1つであるBLUE LIGHT-DEPENDENT H+-ATPASE PHOSPHORYLATION (BHP)を候補として得ました。
    BHPを欠損したbhp変異株の気孔では、青色光によるプロトンポンプの活性化が見られず、正常に気孔が開口しませんでした(図2)。

    図2."

    さらに、これまでに明らかになっている気孔開口調節因子であるBLUS1やPP1との結合を調べ、BHPがフォトトロピンやBLUS1と共に細胞内で複合体を形成し、気孔開口の初期過程おいて重要な働きをもつことが示されました(図3)。このように本研究では、プロトンポンプの活性化を抑制する阻害剤の選抜を起点とし、気孔開口の鍵因子であるBHPの同定に成功しました。

    図3."

    本研究のBHPの発見は、植物の光合成を支える気孔開口のメカニズム解明に貢献した点において、植物生理学上大きな意義があります。BHPは陸上植物に高度に保存されていることから、植物の気孔開口に普遍的に必要である可能性があります。本研究の成果は、BHPの量を調節した植物の作出や、BHP阻害剤の利用・改変などを通じ、人工的に気孔開度を制御して植物の乾燥耐性や成長を向上させる技術へと応用が可能であり、新たな農作物の開発につながることが期待されます。