研究成果 注目の論文

環境記憶統合 “注目の論文” No. 14 遺伝子内部におけるクロマチン修飾の制御と意義にアプローチ

  • 論文名
    Gene-body chromatin modification dynamics mediate epigenome differentiation in Arabidopsis
    著者名(下線は環境記憶統合メンバー)
    *Soichi Inagaki, Mayumi Takahashi, Aoi Hosaka, Tasuku Ito, Atsushi Toyoda, Asao Fujiyama, and *Tetsuji Kakutani
    雑誌名等
    EMBO J online e201694983 (2017) DOI 10.15252/embj.201694983
    http://emboj.embopress.org/content/early/2017/01/18/embj.201694983
    解説

    ヒストンH3の9番目のリジンのメチル化(H3K9me)やDNAのシトシン残基のメチル化は、トランスポゾンの転写抑制を介してゲノムの安定性に寄与しています。不思議なことに、これらの抑制目印は転写制御領域として知られるプロモーターだけではなく、抑制されている遺伝子の内部(Gene body)にも見つかります。今回我々は、活性な遺伝子の内部に抑制目印を蓄積してしまうシロイヌナズナの変異体を用いて、遺伝子内部におけるクロマチン修飾の制御と意義にアプローチしました。

    シロイヌナズナの変異体ibm1では、多数の活性遺伝子の内部にH3K9meやDNAメチル化が蓄積し、結果的に花や葉などの発生異常が引き起こされます(図のA)。今回の研究では、ibm1変異体背景であるにも関わらず発生異常が生じない新たな変異体を同定し(図のA)、これを用いることで下流経路の理解を目指しました。同定された表現型抑圧変異体の原因遺伝子であるLDL2は真核生物に広く保存されたヒストン脱メチル化酵素の1つをコードしていました。ヒストン修飾解析などから、LDL2が遺伝子内部の修飾による転写抑制を仲介することがわかりました。興味深いことにLDL2は、これまでに機能がはっきりしていなかったH3リジン4のモノメチル化(H3K4me1)を遺伝子内部において減少させることで転写抑制を引き起こしていました。つまり、遺伝子内部における抑制目印は、LDL2の機能を介してH3K4me1を抑えることで、転写の抑制を引き起こすことが明らかになりました(図のC)。

    図."
    (A) ibm1変異体は小さく異常な形態の葉などの発生異常を示すが、ibm1 ldl2二重変異体は発生異常が回復する。
    (B)活性な状態と不活性な状態のクロマチンにおける修飾状態はIBM1、LDL2の2つのヒストン脱メチル化酵素によって制御される。
    (C)フィードバックモデル。転写している領域ではIBM1が働き、H3K9me2を抑える。逆に、H3K9me2が蓄積するとLDL2が働き、H3K4me1を減少させることで転写を抑える。

    同様に、遺伝子内部の修飾による転写抑制経路が多くのトランスポゾンでも働いていることがわかりました。本研究の結果は、これまで注目されてこなかった遺伝子内部に局在するH3K4me1の重要性を示すとともに、生物がトランスポゾンをどうやって特異的に抑制しているのかという疑問の理解につながるものです。また、興味深いことにIBM1-LDL2経路で発現レベルが影響を受ける遺伝子の多くは植物が病原菌に感染した際に働く遺伝子であることも明らかになり、遺伝子内部におけるクロマチン制御が、植物の病原菌に対する防御機構に関与していることが示唆されます。