研究成果 注目の論文

環境記憶統合 “注目の論文” No. 15 多機能性人工ペプチドホルモンの創出

  • 論文名
    Cryptic bioactivity capacitated by synthetic hybrid plant peptides.
    著者名(下線は環境記憶統合メンバー)
    Yuki Hirakawa, Hidefumi Shinohara, Kai Welke, Stephan Irle, Yoshikatsu Matsubayashi, Keiko U. Torii, and Naoyuki Uchida
    雑誌名等
    Nature Communications (2017) 8: 14318 (7 pages) doi: 10.1038/ncomms14318
    https://www.nature.com/articles/ncomms14318
    解説

    植物は、ペプチドホルモンと呼ばれる物質を使って成長を調節しています。ペプチドとは5~数十個程度のアミノ酸からなるペプチド分子の総称で、それぞれのペプチドホルモンは特定のアミノ酸配列を持ちます。ペプチドホルモンには多数の種類があり、花や葉の形を決める、根の長さを調節する、茎を太くするなど、個別の働きを担っています。

    図1."

    今回の研究では、2種類の異なるペプチドホルモンが持つ効果の両方を発揮する人工ペプチドホルモンを創出することに成功しました(図1)。このような自然にはない能力を持つペプチドホルモンを作れるかどうかはこれまで分かっていませんでしたが、植物のゲノム中に存在する配列を組み直すことで成功にいたりました。

    図2."

    ペプチドホルモンの作用機序は「鍵と鍵穴」にたとえられ、「鍵」であるペプチドホルモンと、その鍵が特異的に結合する「鍵穴」タンパク質(受容体)が存在します。受容体は細胞の表面にあり、ペプチドホルモンを受容すると細胞が刺激され、植物の成長が調節されます(図2)。

     

    図3."

    過去の研究により、異なる働きを持つペプチドホルモンとしてCLV3とTDIFが知られていました。CLV3を添加すると植物体の茎や根の先端の成長が抑えられます。TDIFは植物体の内部にある維管束(水や養分を通す組織)を太くするように働きます。CLV3とTDIFの受容体はそれぞれCLV1とTDRと呼ばれるタンパク質で、それぞれが特異的な「鍵と鍵穴」の関係になっています(図3)。

    本研究では、CLV3と、CLV3とよく似たCLE25というペプチドホルモンに着目しました。CLV3とCLE25は同じ「鍵穴」であるCLV1受容体に作用しますが、4箇所のアミノ酸配列に違いがあります(図4)。今回、この4箇所を様々な組み合わせで組み替えた人工ペプチドホルモンを合成し、植物への添加効果を調べました。すると、これらの組み換え人工ペプチドホルモンはいずれもCLV3やCLE25と同じく根を短くする効果がありましたが、その中の一つ、KINと名付けた人工ペプチドホルモンは、維管束を太くするペプチドホルモンであるTDIFのように、維管束を太くする効果も示しました(図4)。

    図4."

    図5."

    このことは、KINはCLV3とCLE25という似た「鍵」を組み合わせて生まれたものの、別のタイプの「鍵穴」にも作用するようになったことを意味します。実際にKINは、そもそもCLV3やCLE25が作用する受容体であるCLV1に加えて、TDIFの特異的受容体であるTDRにも作用することもわかりました(図5)。

    以上のように本研究では、植物にそもそも存在するペプチドホルモンの配列の違いを利用することで、自然には存在しない能力を発揮する人工ペプチドホルモンが生まれ得ることを示しました。植物のゲノムの情報からは、植物には機能が未知のものも含めて数百のペプチドホルモンが存在し、それぞれが植物体の様々な器官の成長や環境適応などを制御する働きを持つと考えられています。本研究の手法はこれら様々なペプチドホルモンへも応用が可能であり、今後は自然にはない新しい有用な能力を持つ人工ペプチドホルモンの開発に活用されることが期待されます(図6)。

    図6."