研究成果 注目の論文

環境記憶統合 “注目の論文” No. 3 アフリカの食糧問題に希望の光 ~ 寄生植物の発芽を制御するタンパク質を発見 ~

  • 論文名
    Probing strigolactone receptors in Striga hermonthica with fluorescence
    著者名(下線は環境記憶統合メンバー)
    Yuichiro Tsuchiya, Masahiko Yoshimura, Yoshikatsu Sato, Keiko Kuwata, Shigeo Toh, Duncan Holbrook-Smith, Hua Zhang, Peter McCourt, Kenichiro Itami, Toshinori Kinoshita and Shinya Hagihara
    雑誌名
    Science, 349(6520), 864-868 (2015) doi: 10.1126/science.aab3831
    http://www.sciencemag.org/content/349/6250/864.abstract
    解説

    私たちが普段目にする植物は、光合成によりエネルギーを生産でき、自律して生きていくことができます。しかし例外的に、他の植物にから栄養を吸い取って生きる寄生植物の存在も知られています。そういった寄生植物の一種、ストライガは、穀物に寄生することで田畑一帯を全滅させてしまうことから、別名「魔女の雑草」とも呼ばれています。現在、ストライガによる被害は、アフリカを中心に年間1兆円を超えるとも言われ、世界で最も大きな食糧問題の一つと考えられています。

    田畑に落ちたストライカ?の種は、普段は休眠状態で何十年もホスト植物を待っています。そして、ホスト植物が近くで育ち始めると、その根から放出されるストリコ?ラクトンという化合物を感受して目を覚まし、発芽して寄生しようとします。したがって、ストリゴラクトンを感受するタンパク質(受容体)を制御する化合物を開発できれば、穀物がいないところでストライガを強制的に発芽させて死滅させることや、穀物がいてもストライガを発芽させない方法で、穀物を守ることができます。しかし、標的となるストリゴラクトン受容体は、これまで50年以上見つかっていませんでした。

    近年、ストリゴラクトンは植物ホルモンとして植物の枝分かれを抑えることが報告され、ホスト植物内部でも積極的に形態を制御することが明らかとなりました。これを契機に、ストリゴラクトンの研究は進められ、シロイヌナズナではAtD14と呼ばれるストリゴラクトン受容体を介してシグナル伝達機構を活性化することが明らかとなりました。しかし、ホスト植物における枝分かれの抑制と、ストライガにおける発芽刺激というストリゴラクトンの二つの機能に共通項は見出せません。面白いことに、AtD14ホモログであるシロイヌナズナAtHTLタンパク質は、煙に含まれるカリキンと呼ばれる、ストリゴラクトンとは異なる化合物を受容し、発芽を刺激することが示されました。ストライガのストリゴラクトン受容体は、AtD14が発芽を制御できるよう進化したものか、あるいはAtHTLがストリゴラクトンを受容できるよう進化したものか、いずれかであろうと考えられます。

    そこで名古屋大学とランスフォーマティブ生命分子研究所(ItbM)では、有機合成、植物性理学、ライブイメージングセンター、分子構造センターを融合させた研究チームを結成し、1年半前からこの問題に取り組み始めました。まずは受容体の機能を調べることができる蛍光分子を設計しました。「ヨシムラクトングリーン」(YLG)の設計では、AtD14が受容の際にリカ?ント?を加水分解する特性に着目しました。分子設計の結果、YLGでは、シク?ナル伝達の活性化・受容体による加水分解といった従来のストリゴラクトンの機能に加え、加水分解により蛍光がオンになる機能を新たに付加することができました。すなわち、ストライガの発芽を刺激し、同時に蛍光を発する機能分子を開発することに成功しました。

    これと並行して、研究グループは、AtD14とAtHTLのホモログ遺伝子をストライガの遺伝子データベースから検索しました。その結果、ストライガではAtHTLのホモログ遺伝子の大幅な増幅が見られ、11個もの受容体を発見しました(ShHTL1 - ShHTL11)。さらに、ShHTLタンパク質はYLGを加水分解し、ストリゴラクトンに結合することで発芽を刺激することを証明しました。これらの結果より、ストライガの受容体は、AtHTLがストリゴラクトンを受容できるよう進化したものであることが明らかとなりました。

    受容される瞬間に蛍光を発するYLGを使って、ストライガが、いつ、どの器官でストリゴラクトンを受容するかを観察することができます。高感度蛍光顕微鏡を使い、タイムラプスムービーを撮影した結果、ストリゴラクトンの受容は極めてダイナミックであることが判明しました。ストリゴラクトンの受容は、まずストライガ種子の根の先端で起こり、波のように子葉方向に展開し、一旦消失します。そして、再び根の先端から受容の波が始まると同時に、形態的な発芽の指標である根の伸長が観察されました。ストライガは、この3ステップを踏むことで発芽することが明らかとなりました。

    今回の研究では、YLGの開発によって、これまで50年以上見つかっていなかったストリゴラクトン受容体の実態が明らかとなりました。ITbMが掲げるmix labコンセプトによる、生物と化学の異分野連携による成果です。ヨシムラクトンは、ストライガ生体内での受容体の活動をモニタリングする用途や、受容体の働きを抑える化合物の探索にも応用できます。この成果より、ストライガが発芽する仕組みを解明し、受容体を制御する化合物を開発することで、ストライガ問題の解決にむけた研究を加速させることが期待されます。