研究成果 注目の論文

環境記憶統合 “注目の論文” No. 5 TDIF-TDR複合体の結晶構造を解明

  • 論文名
    Crystal structure of the plant receptor-like kinase TDR in complex with the TDIF peptide
    著者名(下線は環境記憶統合メンバー)
    Junko Morita, Kazuki Kato, Takanori Nakane, Yuki Kondo, Hiroo Fukuda, Hiroshi Nishimasu, Ryuichiro Ishitani & Osamu Nureki
    雑誌名等
    Nature Communications (2016) Nature Communications 7:12383 DOI:10.1038/ncomms12383
    http://www.pnas.org/content/early/2016/07/26/1604849113
    解説

    ペプチドホルモンは、近年注目を集めている新たな植物ホルモンであり、植物のかたちづくりの様々な局面で働くことが明らかになってきています。

    その中でも、CLEペプチド(CLAVATA3/ESR-related peptide)は植物の分裂組織の維持・分化に関わる非常に大切なペプチドホルモンです。CLEペプチドの1種であるTDIFは、ヒャクニチソウ単離葉肉細胞を用いた木部細胞分化系の培養液中から12アミノ酸の形で単離されました。TDIFは、細胞膜上のTDR(PXYとも呼ばれる)受容体に作用し、その後細胞内をタンパクキナーゼGSK3sや転写因子BES1を経てシグナルが伝わり、最終的に木部細胞の分化を阻害する働きを持ちます。このように、TDIFがどのようにして細胞分化を抑えるのかそのシグナル伝達の仕組みは明らかにされてきましたが、それらシグナル伝達の起点となるTDIFとTDRの結合様式はわかっていませんでした(図1)。

    今回、東京大学・濡木研究室との共同研究により、Sf9昆虫細胞を用いたタンパク質発現系とX線結晶構造解析から、TDIFペプチドとシロイヌナズナTDRの複合体の立体構造を決定しました。その結果、LRR(ロイシンリッチリピート)ドメインから構成されるTDRは、らせん状に伸びており、その中央部分にTDIFが結合することが明らかとなりました
    (図2)。

    もう少し詳しく結合の様式をみてみると、TDIFペプチドはN末端、中央部、更にC末端の3箇所でTDRと結合していることがわかりました。TDIFペプチドの中央部(6番目のグリシン残基と7番目のヒドロキシプロリン残基)には折れ曲がりがみられ、TDRはこの折れ曲がりに沿うようにポケット構造を形成していました(図3)。

    このペプチドの中央部は、他のCLEペプチドによく保存されており、またそれを認識するポケット構造を担うアミノ酸も他のCLE受容体(BAMやSKM)でよく保存されていることから、折れ曲がりとそれを認識するポケット構造はCLEペプチド―受容体の結合に共通している可能性が示唆されました。一方で、N末端とC末端およびそれらを認識する受容体側のアミノ酸に関しては、CLEペプチドと受容体の間では保存性がみられないことから、これらの部分はCLEペプチドと受容体の結合の特異性を生み出していることが考えられます。実際に、TDIFペプチドのC末端を認識するTDRの421番目と423番目のアルギニン残基にアミノ酸変異を導入すると、植物細胞においてTDIF応答能が劇的に低下することがわかりました。更には、結合に重要なTDIFペプチドのアミノ酸に置換を導入したペプチドは、分化抑制の活性が低下することが知られています。このように、本研究で明らかとなった立体構造が、生体内での機能を十分に説明できる結果となりました。

    これらの構造解析の結果は、TDIFペプチドとTDR受容体だけではなく、他のCLEペプチドとその受容体の結合様式にも拡張して考えることができます。例えば、構造をもとにしたCLEペプチドの改変や受容体の推定が可能となることで、今後、植物のかたちづくり制御のより一層の理解へとつなげられると期待されます。