研究成果 注目の論文

環境記憶統合 “注目の論文” No. 6 植物の葉をギザギザにするペプチドホルモンの発見

  • 論文名
    A Secreted Peptide and Its Receptors Shape the Auxin Response Pattern and Leaf Margin Morphogenesis
    著者名(下線は環境記憶統合メンバー)
    Toshiaki Tameshige, Satoshi Okamoto, Jin Suk Lee, Mitsuhiro Aida, Masao Tasaka, Keiko U. Torii and Naoyuki Uchida
    雑誌名等
    Current Biology (2016) 26(18):2478-85. doi: 10.1016/j.cub.2016.07.014.
    http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982216307655
    解説

    植物の葉の縁には、小さなギザギザ(鋸歯)を持つものが多くあります(図1)。しかし、葉の鋸歯が形成される際に働く仕組みにはわかっていない点が多くありました。



    今回、EPFL2という物質が葉の鋸歯を作り出す際に働くこと、また、EPFL2が働く仕組みを発見しました(図2)。

    EPFL2は、アミノ酸が鎖のように連なったペプチドと呼ばれる物質です。EPFL2は、昔から知られている植物ホルモンのオーキシンなどに加えて、細胞が分泌する物質として近年発見されたばかりでしたが、その機能が不明の物質でした。そこで、遺伝子の機能を調べる実験に便利な植物シロイヌナズナを用いて、EPFL2の機能を調べました。すると、EPFL2を作れない植物では、野生株の葉にはあるはずの鋸歯が無く、滑らかな葉の形をしていました(図3中央)。つまり、EPFL2は鋸歯のあるギザギザした葉の形を作るために必要な物質だということがわかりました。

    EPFL2など細胞から分泌される物質が働くには、それを受け取るアンテナの役目を果たす受容体というタンパク質が必要な場合が多いので、次に、EPFL2の受容体を探しました。その結果、EPFL2の受容体は、ERECTA family(ERfと略)と呼ばれる一群のタンパク質でした。ERf受容体の機能を一部失った植物は、EPFL2を作れない植物と同じく鋸歯の無い形の葉を作りました(図3右)。

    1つ1つの鋸歯が大きく出っ張るためには、植物ホルモンのオーキシンが重要な役割を果たしています。成長している鋸歯の先端部はオーキシンに反応しており、鋸歯の裾野部分はオーキシンに反応していません(図4左)。このような、鋸歯の先端でだけオーキシンに反応する状態が、鋸歯が成長するためには重要であると言われています。しかし、EPFL2が作れない植物では、オーキシンの応答が鋸歯の裾野にまで広がっていることがわかりました(図4右)。

    一方で、EPFL2は鋸歯の先端部では作られず、鋸歯の裾野部分でのみ作られることもわかりました(図4左)。そして、EPFL2にはオーキシンの反応を抑える働きがあることもわかりました(図5)。逆に、オーキシンに反応した細胞ではEPFL2が作られないこともわかりました(図5)。このお互いがお互いを抑え合う関係のために、オーキシンが反応している場所とEPFL2を作っている場所は、丁度写真のポジとネガのように正反対の関係になります。この仕組みが葉の成長を通して絶えず働くことで、鋸歯の先端だけでオーキシンが反応し続け、鋸歯が大きくなっていくと考えられます。

    今回発見したEPFL2ペプチドが鋸歯のあるギザギザした形を作り出す仕組みは、モデル植物であるシロイヌナズナを用いてわかったことです。葉の鋸歯を作り出す仕組みが同じように他の植物で働いているのかは今後の課題ですが、シロイヌナズナよりももっとギザギザした複雑な葉の形や、触ると痛いトゲトゲの葉もEPFL2によって作られている可能性もあります。EPFL2を活用することで、葉の形を様々に変えることができるようになるかもしれません。