研究成果報告会


                               
本研究成果報告会は、東京理科大学研究推進機構 総合研究院「幾何学と自然科学融合研究部門」
の各年度の研究成果,研究経過,及び,今後の研究計画について、数名のメンバーの方々にご講演を
していただいた上、今後の研究方針についての確認・提案を行うことを目的として、開催されます。

2025


2025年度研究成果報告会
   開催日時: 2025年12月20日(土)
   開催場所: 東京理科大学神楽坂キャンパス2号館4階242教室
   講演者: 鈴木 克彦(東京理科大学理学部第一部物理学科)
        櫻井 雅之(東京理科大学生命医科学研究所)
        井上 和俊(東北大学材料科学高等研究所)
        梶ヶ谷 徹(東京理科大学理学部第一部数学科)
        小池 直之(東京理科大学理学部第一部数学科)
        
   講演タイトル & アブストラクト:
  
    ・鈴木 克彦
     講演タイトル: 相互作用するDirac粒子の量子ウォークによる記述
     講演アブストラクト: 
      量子力学における相対論的波動方程式であるDirac方程式は、時空点を離散化した
      量子ウォークによって記述できることが知られている。本研究では離散化した
      1+1次元時空におけるコイン関数に対してU(1)ゲージ場および曲がった時空間
      の影響を考慮して、時間間隔Δtの1次、および2次で相互作用がある場合のDirac
      方程式を導いた。それらを用いて、一様電場中や、一様加速系であるRindler時空
      にいて古典的運動に対する量子効果を評価した。

    ・櫻井 雅之
     講演タイトル: 幾何学からとらえる核酸と塩基編集酵素
     講演アブストラクト:

       生命のセントラルドグマの途中段階で働く RNA は、多様な二次構造をとり、その
      折れ方やねじれ方によって情報の読み出し方が変化する。中でも A-to-I RNA 編集
      は、酵素 ADAR が二本鎖 RNAdsRNA)に結合し、アデノシン(A)を脱アミノ化
      してイノシン(I)へ変換する反応であり、コドンの読み替えやスプライシング制御、
      自己 RNA 認識の回避などに関わる重要な機構である。
       しかし、同じ配列であっても細胞種やコンテクストによって編集の有無が揺れる例
      が多く知られており、配列モチーフだけに基づく記述には限界があると考えられる。
      本研究では、A-to-I 編集を「配列」だけでなく、その近傍の「形(幾何・位相)」
      からとらえ直すことを目的とする。具体的には、編集が実際に起きた部位周辺の
      dsRNA
構造を少数の測定可能な指標(長さ・角度・距離・分岐や交差の有無など)
      で記述し、それらの形の特徴と編集の起こりやすさ・特異性との関係を整理すること
      を目指している。また、ADAR?RNA 複合体構造から、ベースフリップの起こり方や
      酵素の結合方向、主溝・副溝からの接近様式といった立体的な制約を抽出し、標的と
      する RNA 配列に対してどのようなガイド RNA/ガイド核酸を設計すべきかという
      実際的な設計指針へつなげたいと考えている。
       本発表では、A-to-I RNA 編集と ADAR の基礎的な生物学的背景を概説したのち、
      編集近傍の構造データの集約状況と、形の情報を少数の指標に落とし込むための現在
      の試みを紹介し、幾何学・位相幾何との共同研究によりどのような記述や設計が可能
      になり得るかを議論したい。

   
    ・井上 和俊
     講演タイトル: 差分幾何による格子欠陥の記述
     講演アブストラクト:
      連続体の変形は微分幾何によって記述され、転位は曲率や捩率によって表される。
      一方、連続体微分幾何の離散的対応物として、格子上の差分幾何が発展してきた。
      本講演ではこの差分幾何の枠組みに基づき、一次元格子欠陥である転位を記述する
      手法を議論する。
     ・梶ヶ谷 徹
     講演タイトル: 離散調和写像の幾何学
     講演アブストラクト: 
      有限グラフからリーマン多様体への区分的に滑らかな写像は, 離散版のディリクレ
      エネルギーに関する停留点となるとき離散調和写像と呼ばれる. この概念は測地線
      の自然な拡張であるが, それが捉える幾何学は測地線の場合より豊かである. 理論的
      にも滑らかな多様体間の調和写像に関するさまざまな性質がグラフにまで拡張できる
      一方で, 離散特有の現象や問題なども現れる. 本講演では, 離散調和写像に関して現状
      どのようなことが分かっていて, 技術的にどのようなことが可能なのかを, いくつかの
      数学的な研究結果を通して紹介したい. 

    ・小池 直之
     講演タイトル: 2025年度の研究経過と今後の研究計画の提案
     講演アブストラクト:
      幾何学と自然科学融合研究部門における2025年度4月1日から現時点までの研究経過
      について,その概略を説明させていただきます.当初の研究計画を振り返ることから
      はじめ,下記の3つの研究についてその現時点までの研究経緯の概略を述べさせていた
      だきます.
       I. RNAの局所的な幾何学的構造のA-to-I編集への影響」に関する研究,
       II. 粒界の形状のコントロール法」に関する研究,
       III. グラフ上の量子ウォークのモデルの幾何学的理論による構築に関する研究
      その後,今後の研究計画について,いくつかの提案を行わせていただきます.

 プログラム
   9:50ー10:40
     講演者: 小池 直之(東京理科大学理学部第一部数学科)
     タイトル: 2025年度の研究経過と今後の研究計画の提案
   10:40ー10:50 Q & A
   11:00ー11:50
     講演者: 梶ヶ谷 徹(東京理科大学理学部第一部数学科)
     タイトル: 離散調和写像の幾何学
   11:50ー12:00 Q & A

                 Lunch

   14:00ー14:50
     講演者: 井上 和俊(東北大学材料科学高等研究所)
     タイトル: 差分幾何による格子欠陥の記述

   14:50ー15:00 Q & A
   15:10ー16:00
     講演者: 櫻井 雅之(東京理科大学生命医科学研究所)
     タイトル: 幾何学からとらえる核酸と塩基編集酵素
   16:00ー16:10 Q & A
   16:20ー17:10
     講演者: 鈴木 克彦(東京理科大学理学部第一部物理学科)
     タイトル: 相互作用するDirac粒子の量子ウォークによる記述
   17:10ー17:20 Q & A