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2009年度の講義
- 前期
今期の最難関は水曜の3,5,7である。間に休みがあるとはいえ、やはり一日
3つ. さてどうなることやら.おまけに学内,学外の仕事(数学以外)も
今年は多いのだ.(2009.4.20)
昨日でほぼ前期が終了。学科改組騒動に巻き込まれ予想以上に忙しい学
期になった。5,6月が特に体力的にも精神的にもきつかった。
そういう時に Mozart のクラリネット協奏曲 (K.622) とアダージョ (K.540)
(それにしても、まったく対照的な曲だ)を
再発見し、くり返し聴いて少しの間の安らぎを得ることができた。音楽にここまで救
われるとは。
この間、研究をやる時間もまったくなかった。
生活を抜本的に変えないと、なんのために
数学者になったのかわからなくなってしまう。もっとも, いまはどこの大学で
も研究者としての意欲を持ち続けるのがほんとうに大変そうだ。
(2009.7.28)
- 線形代数学第一 (昼間1コマ(木2), 夜間1コマ(水7)) 線形代数
とMaple
新しく採用した教科書は問、章末問題が適切で使いや
すい。証明はなるべく予備知識を少なく、しかも証明をやり残すとこ
ろがないように工夫されている。ただ、このやりかただと学生が
基本行列の大切さを過大評価してしまうのではないか。
毎年のことだけれど、何年もこの科目を落とし続ける人が一定の数いる。
私の心の中では「そういう人達は放っておけばよい」という声と、「現在の線形
代数の要求レベルは一般の工科系の学生に対しては高すぎる(あるい
は的をえていない)のではないか」という声がせめぎあっている。
現在の線形代数の講義は基本的な計算のしくみを理解し、実行できることが
主な目標とされているのだが、計算をすばやく正確にやることは大事ではあるが
それがすべてであるわけではない。将来、線形代数をユーザーとして使っていく
人達は当然手計算でできる範囲を越えたものばかり扱うことになるだろう。
また理科系でありながら線形代数とまったく無縁の学校生活をおくる可能性も
多いにある。上の学年で線形微分方程式の解法を教えるにしても、線形
構造が強調されることはそれほど多くないのではないか。
そう考えると、毎年落とし続ける人達にも線形代数のいらない別の道があっても
いいのではないかと思えてくるのだ。もちろんその一方では「この程度のことは
理科系の常識だ。またそうあってほしい」という気持ちもあるし、
もう少し抽象的な線形空間の理論をやらないと将来的にも
何も役に立たないという気もする。
普段、講義をしているときは迷っている余裕もないわけだが、成績をつける頃に
なると、こういうことを考えてしまう。
- 数学演習第一(水3)
- 応用代数学(水5)
「問題で学ぶ初等整数論」。今年は去年より題材を少なくした。
最後はひさしぶりに RSA 暗号の講義をした。受講者は20人ほど。
これくらいだと目が行き届いてやりやすい。自分でいろいろな規則性を発見する
ことを通じて、これまでの公式に当てはめるだけの数学から脱却をはか
り、定理が発見され、数学が生まれる現場を追体験して、数学の
面白さの一端をしってもらいたいというのがこの講義の目的。
いろいろ手計算をやってみるわけだけど、それが非常に面倒で手がまったく動か
ない人が何人か。選択なんだからとらなきゃいいのに。
- 基盤数理科学概論(1) (首都大学東京(火3))
「整数の分割」。アンドリュース・エリクソンの教科書でいうと
8章までを、いろいろな手計算をしたり、脇道にそれたりしながらゆっくり講義
した。10人以上の人がずっと休まず出席してくれてありがたかった。
できるなら数論的関数の母関数の話なんかもしたかった。週に一回、本務校を
以外で講義をするのは、時間的にはきついのにもか変わらず、今学期は大きな慰
めであった。
- 修士セミナー
Hardy-Wright の続き。15章まで読む。
2次体の記述はちょっとものたりない。
修論の要求レベルが若干厳しいので、もうすこし何かできそうな本に近々移行の
予定。
学科改組になると、私を含めた数学の教員は専門から外される。
浦田くんが電通大での
(あるいは私の一生で)最後の学生になるかもしれない。そう思うとこのセミナー
は大切にしなくてはならない。
- 後期
それでも後期は忙しいなりにすこし(精神的にも)余裕があった。
すこしは研究もできた。
久しぶりに集中講義に出かけて楽しかった。
- 線形代数学第二(月2, 水4)
線形代数のふたつの講義はそれぞれ90人超
でマイクの授業である。ふたつ同じのをすると、準備に時間がとられないのはよ
いかったが、祝日や休講でかなりずれてやりにくかった。
それになんといってもちょっと飽きる。私はどちらかというと、いろいろな
ことをやってみたい。同じ科目でもいろいろなことを試してみたい。
この大学のように基礎科目は内容をそろえないといけないとなるとなかなか実現
が難しい。ただ個人とグループのバランスをとらないとマンネリ化に陥る可能性が
大きくなると思う。
最近は、教えている時間が長くなる傾向にあるから、それに主体的に意欲的に取
り組み、教えることを楽しめるとよいと思っている。
内容は教科書の4章と6章。計量空間のところは時間がなくて省略した。
今年初めてのこの教科書、問や問題はいいんだが、
どうも楽しくない。すべてをやさしく証明することにこだわりすぎかな。
ベクトル空間としてR^nしか扱わないというのはひとつの見識だが、内容が薄く
なる感じは否めない。このところをはじめこの後半は前期より問題にな
るところが多い。どのあたりに妥協点が見出せるのだろうか。
- 現代代数学基礎論第二 (大学院修士, 月4)
「数え上げ組合せ論」
具体的な問題を解くことにより初等的な数え上げの方法を最初に学んだ
後、教科書の2章の後半と3章の始めの方を中心に講義をした。
写像と集合になれていないと、結構きついようだ。3章はちょっと無理だった。
受講者は4人。単位取得者3人。もうすこしいてもいいんだけど。
来年は学習院でやる予定。
- 修士セミナー
Concrete Mathematics を拾い読みした後、
数列の線形変換に関する論文を読む。面白い。論文を書こう。
- 代数学III・代数学特論(学習院大学, 金2)
「整数の分割」
首都大とほぼ同じ内容。例年より受講者が多い。こちらが話したい母関数から後
のところがなかなかわかってもらえない。残念。
- 数理情報特選F (山形大学, 集中講義 2009年10月26日〜10月29日)
「有限体とその応用」。前半は環、体、イデアルなどの代数的知識
を復習しながら、有限体の構成をした。その中でd次既約多項式の
個数を求めたり、Conway 多項式を計算したりした。素因数分解や
離散対数の計算困難性を使った暗号、デジタル署名を説明し、後半
への動機にした。後半は素数判定、離散対数、素因数分解(2次篩法)
の解説。受講生は大学院生3人。学部生がいないのならば、後半に
重点をおいてやってもよかったと反省。
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