研究概要

小柴研究室では、コンピュータサイエンスにおける システム系 (Systems Research) と呼ばれる研究を行っています。 近年、大規模言語モデル (LLM) や機械学習などの高い処理性能が必要なAIプログラム、また金融取引や医療データ解析などの機密情報を扱うサービスが台頭しており、コンピュータに対する性能要求は益々高まっています。 そのような多様なアプリケーションの要求を満たすため、アクセラレータ (GPU, FPGA, Google TPU)、高速ネットワーク、 高信頼な実行環境 (TEE)、量子コンピュータといった最新のハードウェア技術を活用した次世代コンピュータの実現を目指しています。

特に小柴研はシステムソフトウェア (OS) とハードウェアを専門に扱う研究をしています。最新ハードウェアの機能を最大限に活用するため、従来のコンピュータの設計や構成を一から見直し、ハードウェアとシステムソフトウェアの両面から、最適なシステムを提案・構築・検証します。 これにより、従来コンピュータよりも遥かに高速・安全・高効率な次世代コンピュータを実現します。

研究概要

主な研究テーマ

最新ハードウェアを活用する次世代コンピュータの実現に向けて、小柴研では次の 5つの研究領域 (仮想化・クラウド、アクセラレータ、セキュリティ、ネットワーク、量子コンピュータ) を中心に、新しいシステムソフトウェアの研究に取り組んでいます。 この5つに限らず、時流に適した新しい研究テーマに常にチャレンジしています。

主な研究テーマとプロジェクト
仮想化・クラウド

クラウド・データセンタにおけるアクセラレータ仮想化

クラウド環境では、ユーザからの何万ものサービス実行リクエストを処理するため、GPUやFPGA、AIアクセラレータなどの特定の処理・演算に特化したアクセラレータが導入されています。しかし、従来のCPUのような汎用計算デバイスと異なり、ユーザ間でアクセラレータを共有したり、沢山のアクセラレータを効率よく使う仕組みが不足しています。

本研究では、OSやハイパーバイザなどの仮想化技術を改良し、様々な種類のアクセラレータをユーザ・クラウドサービスが高効率に共有・利用するためのクラウド実行基盤を提案・開発します。クラウドサービスの種類や優先度に応じて適切なアクセラレータを割り当てる (スケジューリングする) ことで、多様なクラウドサービスのアクセラレータによる高速化を可能にします。

キーワード: Cloud computing, Microservices, Serverless, Virtualization, FPGA, GPU, TPU, Orchestration

プロジェクト: Funky (SoCC'25), Proteus (EuroSys'26), F3 (HPDC'25), XPUVirt


クラウドにおけるアクセラレータ仮想化
アクセラレータ

アクセラレータの高効率制御を実現するハードウェア・OS協調設計

FPGAなどのアクセラレータや、大量データを高速に処理するためのスマートI/Oデバイス (スマートNIC、スマートSSD) は、高い処理性能を約束します。しかし、CPUなどの従来の計算デバイスと大きく異なるハードウェア構成や独自インタフェースを持っているために、既存のコンピュータシステムで活用するためには、より複雑な制御が求められます。

本研究では、個々のアクセラレータやスマートデバイスについて、それらを効率的かつ柔軟に制御するためのハードウェアとOSを協調設計します。 CPU上で動作するアプリケーションがデバイス共有・利用するためのソフトウェア層 (API・ライブラリ、OS) だけでなく、デバイス側で動作するアプリケーションの制御を高速・高効率に行うための専用ハードウェアを設計することで、高スループット・低レイテンシ・強固なセキュリティを両立し、アプリケーションが最新のアクセラレータを容易に使いこなせるようにします。

キーワード: FPGA, SmartNIC, Computational storage, Operating systems, Hardware/OS co-design, I/O virtualization

プロジェクト: vFPIO (USENIX ATC'24), μShell (OSDI'26), P2P-Accel


アクセラレータのハード・OS協調設計
セキュリティ

次世代コンピュータのためのセキュリティとデータ保護

AIサービスの台頭により、金融データや医療記録などの個人情報をコンピュータが収集・解析することは珍しくなくなりました。 一方で、近年の情報サービス運用の主体となるクラウド・データセンタでは、何万ものユーザが同一コンピュータ資源を共有しており、より堅牢なセキュリティ機能やデータ保護機能が求められます。

本研究では、最新のCPUが提供するハードウェア機能である高信頼な実行環境 (Trusted Execution Environments, TEEs) と呼ばれるデータ保護機能を活用し、高信頼な大規模データセンタ・ネットワーク基盤を実現します。 従来はCPU上で実行されるアプリケーション向けに設計されたTEEをアクセラレータやスマートI/Oデバイスへも適用できるように再設計することで、アクセラレータ上のデータ保護やネットワークを介して送受信されるメッセージの認証・改ざん検知など、近年のクラウド環境における様々なセキュリティ課題を解決する機能の実現を目指します。

キーワード: Trusted execution environments (TEEs), Trusted computing, SmartNIC, Byzantine fault tolerance, Disaggregation

プロジェクト: TDOS (APSys'23), TNIC (ASPLOS'25), SafeBus


次世代コンピュータのためのセキュリティ
ネットワーク

高速ネットワークを活用する次世代データセンタ

AI学習や大規模データ解析に必要となる大量のデータを高速で転送・処理するため、最新のデータセンタでは400Gbps、800Gpbs (5Gの40〜80倍の速度) もの超高速ネットワークが導入されています。 しかし、従来のCPUでは処理しきれないほどのデータが一度に送られるため、ネットワーク制御を担うOSや、データを処理するCPUがボトルネックとなり、本来の性能を活かすことができません。

本研究では、高速ネットワークの性能を最大限活用するためのネットワークスイッチや制御用OSを開発します。 従来ソフトウェアの制御オーバヘッドを解消するだけでなく、ネットワークを通じてデータセンタ全体を一つの計算資源として扱うことで、ネットワーク上に分散したアクセラレータ・メモリの高効率制御や、多数のGPUを使った大規模計算を実現します。

キーワード: High-speed networking, RDMA, SmartNIC, Data centers

プロジェクト: ReFlex, P4-OS


高速ネットワークを活用する次世代データセンタ
量子コンピュータ

量子コンピュータのための誤り訂正ハードウェアと制御用OS

量子コンピュータは、従来コンピュータでは膨大な時間を要する計算を高速に解けると期待されている一方で、計算の基本単位である量子ビットが希少であるためにノイズの影響を受けやすく、また量子特有の性質によって計算エラーが生じます。 加えて、量子ハードウェアは実現方式によって構成や特性が大きく異なるなど、実用化に向けて多くの課題があります。

本研究では、量子コンピュータの計算エラーを実行時に高速に訂正する誤り訂正ハードウェアと、制御用 OSを設計・開発します。ハードウェア・OSの協調設計により誤りの少ない安定した量子計算を実現し、信頼性・実用性の高い量子コンピュータを実現します。

キーワード: Quantum computing, Quantum error correction, NISQ, Hardware/OS co-design

プロジェクト: Q-connect, Q-shell


量子コンピュータ

量子コンピュータのための誤り訂正ハードウェアと制御用OS