2. 2次元イジング磁性体における常磁性-強磁性相転移
[ 第二章の説明 / 第二章の課題 ]
・相転移を体感してみよう
 まずはこの2次元Isingモデルがどのような相転移をするのか体感する事から始めよう。 右の画像をクリックするとあらかじめシミュレーションされた結果の動画を見る事ができる。
 このシミュレーションはスピンを50×50の正方格子に配置し、先に述べたような再近接のスピン間に強磁性的相互作用J(>0)を設定している。 色の着いた一つ一つのマスは、その場所にあるスピンの時間平均値(*)を色で示してある。

 このシミュレーション内ではスピンの「up」「down」をそれぞれ「1」「-1」と定義して数値的に扱っている。 スピン自身はこの二つの値しかとり得ないが、時間的に揺らいでいるため、時間平均値は1から-1までの間の値を連続的にとり得る。 ここではそれを「赤(+1)〜青(-1)」のグラデーションで示している。

 スピンマップの右側にあるパラメータ「Temp」系の温度であり、この値が小さくなるとともにスピンマップに変化が生じているのが分かるだろう。 具体的には温度が高いときにはどのスピンも揺らいでおり、その時間平均値はゼロに近い。つまり巨視的な「磁化」は生じていない。しかしながら温度が下がると、どのスピンも有限の値(この場合は「−1」)をとるようになる。つまり外部から磁場がかかっていないにもかかわらず生じる巨視的な「自発磁化」を持つようになりこの系全体がいわば「磁石」になった事を意味する。


 重要な事は、系のハミルトニアンが変わっていないにもかかわらず、系の性質が大きく変わったという事である。 物理的な用語を導入すれば、この系のハミルトニアンの中の交換相互作用定数Jが正であることからこの系は「強磁性体」であると言えるが、 温度によって自発磁化を生じない「常磁性相」から自発磁化を生じる「強磁性相」へと相転移するという事になる。

(*:ここで「時間」という表現は必ずしも正確ではないが、定性的な理解のためこのように表記する。)
・相転移はなぜ起こるのか?
 このような変化はなぜ起こるのであろうか?ヒントは学部2年の「熱力学」でならった「ヘルムホルツの自由エネルギー」
にある。ここでEは内部エネルギー、Tは温度、Sはエントロピーである。
 細かい説明は熱力学、統計力学の教科書に譲るが、重要な事はこの表式には内部エネルギーとともに温度とエントロピーが含まれている事である。

 等温等積の系における熱平行条件は自由エネルギーが極小値をとる事である。これを噛み砕いて解釈すると

「系は『内部エネルギーが最小』と『エントロピー(×温度)が最大』を両立する状態を平衡状態として選ぶ」

という事になる。上の二つの条件は往々にして互いに相反する。つまり「あちらを立てればこちらが立たず」という状況が起こりうる。 その「エントロピー」と「内部エネルギー」のパワーバランスを調節しているのが温度である事がこの式から読み取れる。

 これをふまえて、課題2ではこの系のシミュレーションを自分で操作し、相転移の性質を定量的に調べてみよう。その結果を見た上で、なぜ相転移が起こるのかを自分の言葉で説明できるようになろう。
 また、この系のシミュレーションには「MonteCarlo法」という方法が用いられているが、詳細は次の章で触れる事にする。

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