AppendixC:シミュレーションで使用する変数について
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温度 T や磁場 H などの変数はそれぞれに次元を持っている.しかし,計算機で扱えるのは無次元の数値だけである.例えば T は温度の次元をもつ変数であるが,第1部のシミュレーションで確かめた強磁性-常磁性相転移温度は
=2.27 である.これはどのような温度を意味しているのだろうか.これと同様に次元を持っている他の物理量を計算機中ではどのように扱い,シミュレーションで得られる数値はいったい何を意味するのだろうか.
ここでは,実際の物理量と計算機の数値との間の対応を明確にし,計算値が物のどのような性質を示す数値なのかを理解することを目的とする.
・ハミルトニアンの無次元化
ある物理量を計算機でシミュレートするためには,その物理量と同じ次元を持ちシミュレートする系固有の量(ものさし)で測りなおす必要がある (無次元化).
例えばハミルトニアン H はエネルギーの次元を持つが,隣り合った磁気モーメントの相互の向きでエネルギーが定まる交換相互作用項の定数 J は系固有のエネルギーのものさしであり,この J をものさしとして無次元化を行うことができる.

(c-1)
の両辺を|J|で割り,

(C-2)
ここで
とすると,

(C-3)
となり,上式のすべての変数が無次元の量になった.計算機中では (C-3) 式をハミルトニアンとして用いることにする.
磁場の大きさを表す無次元量
は,大きさμBの磁気モーメントが外磁場H中でなすゼーマンエネルギーμBHのJを単位にしたとき定まる量である.
は
=1(強磁性交換相互作用)または
=-1(反強磁性交換相互作用)を表す.シミュレーションでは J の絶対値ではなく J の符号が分かればよい.
・温度,エネルギーの無次元化
同時に,温度の次元を持つ T にボルツマン定数κBをかけてエネルギーの次元にしたものとエネルギー E を,J をものさしとして無次元化し,

(C-4)
と表すことにする.
・磁化の無次元化

(C-5)
は磁気モーメントの次元を持つので,μBで無次元化する.

(C-6)
・磁化,エネルギーの規格化
磁化
,内部エネルギー
は系全体に対して定義されているので磁気モーメントの数 N に依存している.磁化
を磁気モーメント 1 つあたりに規格化した量を
とすると

(C-7)
となる.同様に内部エネルギー
を磁気モーメント 1 つあたりに規格化した量を
とすると
'(C-8)
・帯磁率の無次元化,規格化
帯磁率を既に無次元化された変数を用いて表し無次元化する.
ゼロ磁場帯磁率χは

(C-9)
で表され,次元は(磁気モーメント)2/(エネルギー)である.(C-7) 式より
(C-10)
無次元化された帯磁率
は

(C-11)
磁化
と同様に帯磁率
は系全体に対して定義されているので磁気モーメント 1 つあたりに規格化した量を
onespinとすると
(c-12)
この式の N は示量性を表すものではなく、
が磁気モーメント 1 つあたりに規格化されているために現れたものである.
・比熱の無次元化,規格化
比熱を既に無次元化された変数を用いて表し無次元化する.
ゼロ磁場における比熱 C は

(C-13)
で表され,次元は(エネルギー)/(温度)である.(C-8) 式より
(C-14)
無次元化された比熱
は

(C-15)
内部エネルギー
と同様に比熱
は系全体に対して定義されているので磁気モーメント 1つあたりに規格化した量を
onespinとすると
(C-16)
この式の N は示量性を表すものではなく,
が磁気モーメント 1つあたりに規格化されているために現れたものである.
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