RESEARCH TOPIC

研究テーマ

有機系太陽電池

光捕集アンテナを応用した色素増感太陽電池

地球に降り注ぐ太陽光は莫大なエネルギーを持っており、照射1時間分のエネルギーは人類の消費エネルギー1年分に匹敵すると計算されています。しかしながら、そのエネルギー密度は低く、太陽光を利用する上で問題となっています。

天然に存在する植物や光合成細菌などは、このような太陽光を効率良く使うために「光捕集アンテナ系」と呼ばれる機能を進化させてきました。 これは太陽光を吸収すると、Förster共鳴エネルギー移動(FRET)などの機構によって、その光エネルギーを反応中心に集めるものです。 我々は、このアンテナ系を模倣して、光エネルギー変換デバイスへ応用する研究を行っています。

酸化チタン上にアンテナ系(ドナー)と、発電を行う増感色素(アクセプター)を共吸着させたところ、FRETに続く発電が確認されました。このような光捕集アンテナ系は太陽電池だけでなく、複数電子を必要とする人工光合成への応用にも期待できます。FRETFRET

Chemistry Letters, 47(2), 225–227 (2018)
ACS Applied Energy Materials, 2(6), 3986-3990 (2019)

アップコンバージョンを応用した色素増感太陽電池

天然の光捕集アンテナ系では、高エネルギー光から低エネルギー光(短波長光から長波長光)へ変換することで光エネルギーを集めています。 我々は、低エネルギー光を高エネルギー光へ変換するような「天然を超える」アンテナ系の構築にも取り組んでいます。

この機構は「アップコンバージョン」と呼ばれています。我々は、その機構の1つである「三重項-三重項消滅アップコンバージョン(TTA-UC)」を太陽電池に応用することを試みています。現在、酸化チタンとの複合によってTTAーUC由来の発電が確認できています。このような太陽電池は、従来の理論効率を超える可能性を秘めています。TTA-UC

ACS Omega, 4(6), 11271-11275 (2019)

光合成タンパク質を用いたバイオ太陽電池

バイオ太陽電池とは、バイオの力で光エネルギーを電気エネルギーに変換するデバイスです。これらは環境への負荷が小さく、太陽光と水と少しの栄養で培養できるため、安全で枯渇の心配のないエネルギー源としての利用が期待されています。

このバイオ材料の中でも天然の光合成細菌から単離した「タンパク質」は、現在の科学技術では再現できないほど高度に組み立てられており、非常に興味深い材料です。我々の研究室では、大阪市立大学と共同で「光化学系1(Photosytem 1, PS1)」と呼ばれるタンパク質を用いたバイオ太陽電池の研究を進めています。biophotovoltaics

ACS Applied Energy Materials, 2(6), 3986-3990 (2019)
RSC Advances, 10, 15734-15739 (2020)

界面錯体を利用した太陽電池

アントラセンカルボン酸やTCNQなどの有機色素が酸化チタンに吸着すると、そのどちらの吸収でもない新たな吸収が観測されます。 これは有機色素から酸化チタンへ、光励起で直接電子が移動する界面電荷移動による吸収と言われています。 このような直接電荷分離を行う新規光エネルギー変換材料は、一般的な色素増感太陽電池の電荷移動機構と比べてエネルギーロスを少なくするこができると期待されています。

当研究室では、酸化チタンなどの半導体を改良することで光電変換効率の向上を目指して研究しています。

Catalysts, 8(9), 367 (2018)

人工光合成

光触媒を用いた水分解

光触媒を用いた水分解は、太陽光のエネルギーによってクリーンなエネルギー源である水素が生成されるため、「本多-藤嶋効果」が発見されて以来非常に注目されてきました。

本多-藤嶋効果:H2O + 2 hν → H2 + 1/2 O2

高効率な水分解反応を実現するには、太陽光エネルギー分布の大部分を占める可視光の利用が必須です。しかしながら、酸化物を除いた可視光応答性光触媒の多くは、光励起によって生じた正孔によって自身を酸化してしまう(光腐食)欠点を持っています。

我々はこの光腐食を抑制するため、「電子移動」と「構造制御」に注目して研究しています。このような戦略によって、従来は不安定で水分解が不可能であった光触媒から、安定的な光水分解に成功しています。CdS

International Journal of Hydrogen Energy, 43, 2207–2211 (2018)
ACS Omega, 3(10), 12770–12777 (2018)
ACS Applied Energy Materials, 1(12), 6730-6735 (2018)
RSC Advances, 10, 105-111 (2020)

光合成タンパク質を用いたバイオ光水素発生

天然の光合成細菌から単離した「タンパク質」を用いた光水素発生も大阪市立大学と共同で研究しています。 特に光合成反応中心の1つである「光化学系1(Photosytem 1, PS1)」と呼ばれるタンパク質は、光水素発生に応用できると言われています。

現在、白金ナノ粒子と人工アンテナ系をPS1を複合させることで水素発生量の向上を確認しています。

Photochemical & Photobiologycal Science, 18, 309-313 (2019)

光機能材料

光触媒による硫化水素分解

火山大国の日本は、アメリカ、インドネシアに次ぐ世界第3位の地熱資源量を有しています。 しかしながら地熱発電の導入量は他国に比べて大きく出遅れています。 その原因の1つとして、地熱発電に用いられる水蒸気に含まれる硫化水素の異臭が挙げられます。 例えば関東圏で唯一の地熱発電所である八丈島地熱発電所では、用いられる水蒸気に2000ppm以上の硫化水素が含まれており、周辺住民を悩ませています。

既存の地熱発電由来の硫化水素は、LPガスで焼却し、水酸化マグネシウムで中和することにより破棄されているため、純粋に環境に良いとは言いがたい状況です。 また福島県の柳津西山地熱発電所では、石油化学で用いられるクラウス法を応用した方法が導入されています。

クラウス法:2 H2S + O2 → 2 H2O + 2 S

この方法では、燃焼法に近い高温(800度以上)で触媒を用いて処理しているため、発電コストという観点からは不向きです。

我々は、無尽蔵に降り注ぐ太陽光と光触媒を用いることによる、低コスト且つ室温での硫化水素分解の研究を進めています。 銅や銀を担持した酸化チタンは、気相中における硫化水素の分解能の向上がみられました。

さらに深海の熱水噴出口で光合成を行う紅色光合成細菌に注目して、硫化水素からの水素生成も研究しています。 紅色光合成細菌は、水を水素供与体とする植物や藻類と違い、硫化水素から水素を作り出しています。 この反応を光触媒を用いて再現することで、硫化水素分解と合わせて水素を生み出すことができ、更なる発電コストの削減が期待できます。h2s

Nanoscience and Nanotechnology Letters, 9, 1696–1699 (2017)
Chemistry Letters, 46(12), 1797–1799 (2017)

光触媒と機能性材料の複合

光触媒の用途拡大や新たな活用法を見出すため、光触媒と機能性材料を複合する研究にも取り組んでいます。

例えば光触媒とアンモニアの吸着剤と複合することで、アンモニアの除去と吸着剤の再生が可能になります。アンモニアは水棲生物への毒性が高いため、家庭用水槽のアンモニア除去剤などへの応用が期待されます。また漏光型光ファイバーと複合することで、光が届かない場所や水中などでの汚染物質分解が可能になります。このように光触媒の利点を応用し欠点を補うことで、より良い光機能性材料の開発を進めています。photocatalysis

Chemistry Letters, 47(12), 1542–1544 (2018)
Chemistry Letters, 49(2), 199-202 (2020)