リサーチ

中田研究室では「ライフサイエンスの次世代を創る」を掲げて、生物学と化学の掛け算から生まれる新しい研究分野を創出することを目指しています。
 生命の営みは突き詰めれば化学反応でできていると言えます。そのような化学反応に影響を与える生物活性物質を、生物機能制御のためのツールとして積極的に利用することで、細胞の構造や機能を司る分子、生物の発生や細胞死、生物個体の生理活性を制御するしくみ等を解析し、その知見を医療や農業、食品、環境、宇宙分野等へと応用することを目指しています。

研究テーマ1:光触媒が関わる生物学


キーワード:光触媒、希少糖、種子の発芽向上、菌・ウイルス・藍藻類の不活化、環境浄化

バイオマス(薬、たべものをつくる)

・糖質バイオマスからの希少糖の生成
糖は食料として生物に必須であるだけでなく、最近では発電用途やバイオエタノール、ポリ乳酸の原料としても期待されており、その需要が格段に高まっています。本研究では、糖質系バイオマスを光触媒によって分解し、ブドウ糖や希少糖などの有用糖を作る研究を行っています。特に希少糖は、抗がんや抗炎症作用など薬効が発見されており、新しい薬として期待されています。最近、当研究室では希少糖のリキソースやエリスロース(25グラムで約200万円)をブドウ糖や乳糖といった安い糖から合成したり、これまで世の中に存在しなかった新しい希少二糖の合成に成功しています。また、新しく作った希少糖の生理活性についても研究しています。

・光触媒を用いた種子の発芽率の向上
現在、農業において農作物の高収率化や低コスト化が求められています。薬草などの一部の作物は種子の発芽率が低いため、その向上が重要な検討課題となっています。本研究では、活性酸素種によって種子の発芽率が向上することに着目し、光触媒から発生する活性酸素種が種子の発芽に与える影響について検討しています。最近では、光触媒処理を行った種子では発芽率が向上することを発見しました。現在は様々な種子に対しての効果を確認するとともに、作用機序についても調べています。

環境浄化(世の中をきれいにする)

・”最強”芽胞形成菌の不活化と作用機序解析
ウェルシュ菌、ボツリヌス菌は食中毒細菌として知られています。ウェルシュ菌は集団食中毒の原因になり、毎年1000~3000人もの患者が確認されています。また、ボツリヌス菌は致死率が最も高いことで知られており、ボツリヌス菌が出す毒素は約28 gで地上の全人類を死滅させてしまうほどの史上最強の毒素で、日本でも過去に人が亡くなっています。現在でもボツリヌス菌による食中毒は確認されており、土壌や海、はちみつ、動物の腸内など広く分布しています。これらの食中毒が絶えない理由として上記の菌が熱に強く、加熱調理しても死滅しないことが挙げられます。これら食中毒細菌は飢餓状態になると厚いタンパクの殻を形成し(芽胞という)、アルコール消毒液や100℃の煮沸を行っても死滅しない最強の耐性をもちます。そこで本研究では、光触媒を用いて芽胞を不活化させることを検討しています。最近では、芽胞を形成した枯草菌を光触媒によって不活化することに世界で初めて成功しました。芽胞不活化の作用機序解析などについても検討を行っています。

・環境の悪玉“アオコ”の浄化
湖沼などでは、富栄養化によって藍藻類や藻類などによる“アオコ”が大量発生し、それらから発生する毒素や湖沼の無酸素化、太陽光の遮断などが大きな問題となっています。本研究では、光触媒を用いたアオコの浄化と作用機序解析の研究を行い、環境問題に貢献することを目指しています。

研究テーマ2:生命の誕生と死の生物学


キーワード:受精、不妊症、膜融合、細胞死、糖タンパク質、アンチエイジング、抗癌剤

受精(不妊症、膜融合機構の解明)

哺乳類における生殖細胞は、次世代に伝わる唯一の細胞です。雌雄の生殖細胞が1対1で融合し生命の萌芽である受精卵が生まれます。雌性生殖細胞1つに対して複数の雄性生殖細胞が融合した場合、発生が停止するのではなく、奇胎というガンに似た状態に発展する場合があります。非自己である雄性生殖細胞を受け入れる雌性生殖器の中では、効率的に受精することと、1対1で融合することを両立するために多くの制御が行われています。それに加えて、着床と胚発生に異常が発生して起こるのが不妊症です。不妊症とは、治療を行わないかぎり自然に妊娠する可能性がほとんどない状態をいいます。避妊をせず1年以上の不妊期間を持つものを不妊症と定義しています。約10%のカップルが不妊症と考えられており、晩婚化によって治療開始が遅れ、切迫した患者が増えている現状があります。不妊症と診断された場合であっても、著しい異常が認められない場合も多く、分子機構の解明により、分子生物学的診断と治療法の開発が求められています。 本研究室では、主に配偶子の融合過程に注目し、受精に求められる分子的変化や、配偶子間の相互作用機構の解析を行っています。具体的には、受精直前に行われるタンパク質の切断、糖鎖の変化、脂質による制御の解析を行っております。 右図では、卵の異常によって膜タンパク質の局在に異常が現れています。

創薬(アンチエイジング、抗癌剤の探索と作用機序の解明)

現代では寿命が延びたことや飽食により、様々な疾患が問題となっています。悪性新生物(ガン)、心疾患、脳血管疾患が死因上位を占め、糖尿病性腎症による透析導入患者は年間約1万人増加しています。その根底には生活習慣病が関わっています。そのため、細胞へのストレスを軽減し、ガンや老化を予防することが求められています。人体は約37兆個の細胞で構成されていますが、それぞれの器官で代謝や循環が異なっており、発現遺伝子のみでなく薬物動態が薬効に大きく影響します。そのため、特定の器官の特定の細胞に作用させる薬にはex vivoにおいては似た活性を示しても、in vivoで動態が異なる多様な選択肢が求められます。 本研究室では、天然物からの抽出物や化学合成した化合物の細胞ストレス誘導機構や軽減機構、副作用の解析を行っています。その結果として、特異性が高く副作用の少ない薬剤の開発、副作用の抑制薬の開発を目指しています。特定のガン細胞株への特異性がある化合物の細胞死誘導機構の解析、抗癌効果を保ちつつ副作用が低い化合物のスクリーニング、天然物からのアンチエイジング物質の精製と作用機序の解析を行っております。 右図Aはコントロール。 Bは既存の治療薬。Cの化合物は同様のガン細胞抑制効果を示すが催奇性が抑制されている。