2008年度 修士論文要旨


細菌緊縮調節のシステムシミュレーション

加藤幸花

 近年の生命科学では、生命の全体像を分子レベルから一貫した“システム”として 理解しようというシステムバイオロジーが提唱されている。中心課題の一つが細胞シ ミュレーションであり、細胞内反応プロセスを数理モデルで表現し、個々の要素だけ に着目するだけではわからない細胞全体の挙動の分析・予測を目的とする。本研究室 では、反応プロセスを視覚化し、生化学的な根拠に基づくという2点を備えたシミュ レータを開発した。しかし記述した反応プロセスは大腸菌2段階増殖だけであり、 細胞全体のシステムの記述は未達成であった。そこで今回細胞システム全体を記述す るシミュレータを目指した。

 生化学データのサンプルとしては、情報量が豊富な大腸菌が理想であるが、遺伝子 数が約4000と多いため開発初期のモデルには向かない。そこで、アブラムシ共生細菌で、 遺伝子数が619と少ないブフネラを対象とした。ブフネラはグラム陰性菌で大腸菌と 近縁関係にあるため、大腸菌の情報が利用できるという利点がある。

 ブフネラのゲノムの、低分子・高分子代謝系、細胞プロセス、調節系遺伝子のうち、 今回、生化学データが充実している代謝プロセスのデータを主に収集した。特にエネ ルギー代謝の大部分と、遺伝子発現に関する転写・発現制御・翻訳過程を取り込んだ。 その結果、遺伝子619のうち、約半数の遺伝子を取り込むことが出来た。そのうえで、 本シミュレータの一例としてアミノ酸飢餓状態での大腸菌のrRNAの転写抑制機構であ る緊縮調節のシミュレーションを行い、緊縮調節因子RelAによるrRNAの転写抑制機構 を再現した。今後ブフネラ一匹丸ごとシミュレーションを可能にするには、細胞分裂 プロセスのモデル化と低分子生体物質代謝系のパラメータ収集が大きな課題である。


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