私の研究室(木田研究室)で整数論およびその周辺の勉強がしたい人に,
研究室でお互いに有意義に過ごすために必要なことを書いておきたい.
卒業研究では学問の知識・技術を身につけるのが第一の目標だが,
それ以上に大事なのは「自分一人の力で本を読み,考える
力を身につける」,「他人にわかるように丁寧に説明する」,「わからないことを
考え抜く」いったことだろう.
これは社会に出て知的な生業に携わる人の必須の能力である.
それを身につけていくために以下のことを心がけてほしい.
- 基本的なこと
セミナーは受け身に講義を聞く場ではない.
ディスカッションをする場であるという認識がまず必要.
「習う」から「学ぶ」へ意識を転換してほしい.
以下に挙げたことのうちのいくつかは,もうすぐ社会人になろうという
大人に向かってする注意ではないので,
本当は書きたくないが,あえて書く.
- 必ず予習して望むこと.自分の発表の分は完全に理解してくる.
発表中に「わかりませんでした」は厳禁.自分の発表でないところは
わからないところをはっきりさせておくこと.
- 他人の発表を聞くときは,予習したノートに書き込みながら,あるいはノートを取りながら聞こう.
そしてわからないところはセミナーで発表者に質問すること.
- 発表時に教科書を見ながらやってはいけない.
要点をまとめた自筆ノートは見てもよい.
- テキストの演習問題を積極的に解くこと
- 遅刻をしない
- 無断欠席厳禁.就職活動等で休まざる得ないときは,かならず私に直接連絡すること.
- セミナーの前日は夜更かし等を控え,セミナー中は集中できるように
心がけること
- セミナー中は携帯電話等にさわるのを我慢せよ
- アルバイト等がセミナーより優先されることはない
以下のリンクでも数学・セミナーに臨むための心得が得られる.
- 学問に関すること
- 卒業研究
- 整数論およびその周辺に関する本を週2コマ輪講する.
例年,私が指定した教科書を読むことが多いが,
特に強い希望があればその本を採用することもある.
大学院にすすむにしても,社会にでるにしても,英語の本を選ぶのが望ましい.
4年生のセミナーで使ったことのある本をあげておく.
- Ireland--Rosen, A classical introduction to mordern number theory, Springer
- Borevich--Shafarevich, Number theory, Academic Press(邦訳「整数論(上)(下) 吉岡書店)
- Cox, Primes of the form x^2 + n y^2, Wiley
- Samuel, Algebraic theory of numbers, Dover
- Silverman--Tate, Rational points on elliptic curves, Springer (邦訳「楕円曲線論入門」丸善出版)
- Graham, Knuth, Patashnik, Concrete Mathematics, Addison Wesley (邦訳「コンピュータの数学」共立出版)
- Hardy--Wright, An introduction to the theory of numbers, Oxford UP
- Apostol, Intoroduction to Analytic Number Theory, Springer
- Apostol, Modular Functions and Dirichlet Series in Number Theory, Springer
- Buchmann--Vollmer, Binary Quadratic Forms: An Algorithmic Approach, Springer
- Marcus, Number fields, 2nd ed., Springer
- Neukirch, Algebraic number theory, Springer
- Serre, Course in Arithmetic, Springer (邦訳「数論講義」岩波書店) (後半のみ)
- マトウシェク,ネシェトリル,離散数学への招待(上)(下),丸善出版
- 高木貞治,代数的整数論,岩波書店
- 荒川・金子・伊吹山,ベルヌーイ数とゼータ関数,牧野書店
- ザギエ,数論入門,岩波書店
- 梅村浩,楕円関数論,東大出版
- コブリッツ,楕円曲線と保形形式,丸善出版
- ケッヒャー,数論的古典解析,丸善出版
- Walker, Elliptic functions, Wiley.
- Stewart and Tall,Algebraic Number Theory and Fermat's Last Theorem, CRC Press.
- Shurman, Geometry of Quintics, available from the web.
- Frohlich-Taylor, Algebraic number theory, Cambridge UP
- McKean, Moll, Elliptic curves, Cambridge UP
他にも次のような候補がある.
- 藤崎源二郎,代数的整数論入門,裳華房
- 岩澤健吉,代数関数論,岩波書店
- Serre, Course in Arithmetic, Springer (邦訳「数論講義」岩波書店)
- Davidoff, Sarnak, Valette, Elementary number theory, group theory, Ramanujan graphs, London Mathematical Society
- Terras, Fourier analysis on finite groups and applications, London Mathematical Society
参考までに3年生の数学研究で使ったことのあるテキストは以下の通り.
- 渡辺敬一,環と体,朝倉書店
- ヴェイユ,初学者のための整数論,ちくま文庫
- 山本芳彦,数論入門,岩波書店
- アルティン,ガロア理論入門,ちくま文庫
- 山崎隆雄,初等整数論,共立出版
- コックス,ガロア理論(上),日本評論社
- 小野孝,数論序説,裳華房
- 栗原将人,ガウスの数論世界をゆく,数学書房
- 青木昇,素数と2次体の整数論,共立出版
- 西山享,多項式のラプソディ,日本評論社
- 草場公邦,行列特論,裳華房
- 枡田 幹也,福川 由貴子,格子からみえる数学,日本評論社
- 3年生までに代数学,環と加群,体とガロワ理論をすべて履修しているのが
望ましい.セミナーと平行して履修してもかまわないので必ず4年生のうちに
履修すること.
- 関数論はなるべく履修すること.解析学2の内容は必須.代数学に限らず,いろいろな数学を知っていると,
整数論の幅が広がる.
教師などの数学に関する専門的な職業に就こうと考える場合は,修士課程に
進学することはもはや必須だと思う.したがって,その場合は学部時代から
進学を視野に入れて勉強をする必要がある.
- 修士課程
最初の1年くらいはよりすすんだ理論についての輪講をする.
この時点で,卒業研究の項で書いた代数学のコースはすべて履修していることは
必須である.他大学からの進学などで整数論の初歩を学習していない場合も
受け入れることは可能だが,必ず受験前に相談にくること.
現在のところ,内部選考の人,また一般入試で標準的な成績を
あげた人は,原則受け入れるようにしている.
他大学のようなマンツーマンの指導はできないことをご了承いただくしかない.
輪講のテーマの例として考えられるのは,
などだが,博士課程の進学を前提としないのであれば,離散数学や暗号理論,または
代数学(ただし群論,表現論,数論幾何の先生はいらっしゃるのでそれ以外)などの希望の
分野を勉強することも可能.
後半は具体的なテーマをきめて(自分で見つけるのが望ましい),その周辺の
論文を読み,自分で考えたことを修士論文を書くことになる.
- 博士課程
博士課程に進学すると,おもに研究者の道を目指すことになるが,実際に大学,
高専などに職を得ることは現状では非常に難しいと考えた方がよい.
しかし難関私立中高の教員や,企業の研究所などを中心に博士号取得者の
方が就職しやすい場合もある.将来に対する広い視野をもって,
博士号を目指すことは有意義である.
博士課程は希望すれば進学できるわけではない.
内部進学の人は修士論文への取り組み方をみて受け入れを決めることになる.
博士課程を修了するにはオリジナルな結果を含む博士論文をかかなくてはならない.
したがって,私が指導できる分野も修士課程にくらべて狭くならざるをえない.
- 代数的整数論とその周辺
- 逆ガロア問題とその周辺
- 以上の問題における計算数論からのアプローチ
といったところが指導可能な分野である.
事前に十分な相談の上で進学することが必要である.
書く方にとっても博士論文を書くことは,生半可な心持ちでは難しい.
進学するさいには,かなりの覚悟をもつ必要がある.
また博士課程に進む場合は意識的に英語を書く勉強を自分でしていただきたい.
貴重な時間が英語の添削ばかりで失われるのはもったいない.
理科大ではそのための授業が用意されている.
また以下のリンクも参照されたい.
正しい英語で論文を書くために
2017年3月
木田研究室の卒業生
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