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 代数学や位相幾何学における各科目についての参考書に関する質問を,学生からあまりにも何度も受けるので,理学部第二部数学科の学生向けに,ここに纏めることにいたしました.以下は私の経験(主に学生の頃に実際に読んでいたもの)に基づくもので,決してこれ以外に良いものがないということではありません.また,高度すぎるようなものも挙げておりません.

 特に,私が大学を卒業して以降に新たに出版された本については目を通していないものも多く,中にはここに掲げたものよりも良いものがあるかもしれません.飽くまで参考程度とお考えいただければ幸いです.

 また,私自身,一つの理論を勉強するときに一冊の本を決め込んでそれだけを勉強するということは殆どなく,必要に応じて類似の文献や論文にも目を通して足りない部分を補うようにしていました.メインの参考書を決めて勉強するとともに,将来自分がどのようなことをやりたいかに応じて必要な知識を他の文献から吸収しながら学修するといいでしょう.

 以下は,本気で数学を学びたいと考えている人向けに書いた文章です.ただ単位を取るためだけに効率よく勉強したいと考えている方には参考にならないと思います.私はそういう勉強を一切したことがないので良く分かりません.試験の直前に,ドラえもんに頼るかのごとくに私の研究室へ質問に来るのはやめてください.
 

内容

  代数系

  線型代数,群論,環と加群,可換環論,体とガロア理論,ホモロジー代数,代数的整数論,ほか

  位相幾何系

  基本群と被覆空間,ホモロジー群(単体複体,特異複体,胞体複体),位相群,ファイバー束とホモトピー群



  代数系

  線型代数(一年生の標準的講義内容+ジョルダン標準形,2次曲面の分類など) 対象:1回生

  線型代数につては膨大な数の参考書が出版されていますので,もちろん全てに目を通したわけではありませんが,理論的にしっかり学びたい方は,

  (1) 永田 雅宜 代表著者,「理系のための線型代数の基礎」,紀伊國屋書店
  (2) 佐武 一郎著,「線型代数学」,裳華房

  が良いのではないでしょうか.(1)は京都大学理学部で使用していたテキストで,行列の前にベクトル空間の理論を学修します.斉次連立一次方程式の解集合を基底という概念を用いて記述できるのはスマートな感じがしました.(2)も昔から定評のある教科書です.テンソルなど,発展的な内容もいくつか収録されていて有難いですが,初学者には少し敷居が高いかもしれません.幾分,平易性が増したものとしては,

  (3) 川久保 勝夫著,「線型代数学」,日本評論社
  (4) 長崎 生光監修,牛瀧 文宏編集,「初歩からの線形代数」,講談社

  などは図が豊富で良いと思います.(4)はカラフルで視覚的にも親しみやすいですし,高大連携を意識しており,解説が大変丁寧です.

  工学部の学生を対象として以下の拙著を執筆しました.

  (5) 佐藤 隆夫著,「テキストブック線形代数」,裳華房,訂正表(2020.1.8.更新)

  群論(シローの定理あたりまで) 対象:2,3回生

  抽象的な定義・理論にまず慣れるという意味では,とにかく平易な解説と簡単な例がいくつも書いてあるものが良いでしょう.その意味では,

  (1) 新妻 弘・木村 哲三著,「群・環・体入門」,共立出版
  (2) 松坂 和夫著,「代数系入門」,岩波書店

  などが良いでしょう.一般的な教科書としては,

  (3) 浅尾 啓三・永尾 汎著,「群論」,岩波全書

  があります.少し高度なものとしては,

  (4) 鈴木 通夫著,「群論 上」,岩波書店

  などがあります.(2)と(3)の中間ぐらいを意識して以下の拙著を執筆しました.

  (5) 佐藤 隆夫著,「シローの定理」,大学数学スポットライトシリーズ第1巻,近代科学社,訂正表(初版, 2019.1.31.更新)

  環と加群(単因子論あたりまで) 対象:2,3回生

  群論と同様に,手始めに慣れない理論に親しむという意味では,

  (1) 新妻 弘・木村 哲三著,「群・環・体入門」,共立出版
  (2) 松坂 和夫著,「代数系入門」,岩波書店

  が良いと思います.多くの簡単な計算例を丁寧な解説で学べます.ただ,大学院進学を視野に入れるのであれば,以下の本に書かれている内容くらいは知っておいた方がいいと思います.

  (3) 彌永 昌吉・有馬 哲・浅枝 陽著,「詳解 代数入門」,東京図書
  (4) 堀田 良之著,「代数入門」,裳華房

  可換環論 対象:3,4回生

  局所環やイデアルの準素分解,クルルの標高定理,正則局所環などが平易に解説されているものとしては,新妻先生による以下の本が読みやすくおすすめできます.

  (1) 新妻 弘著,「イデアル論入門」,大学数学スポットライトシリーズ第5巻,近代科学社
  (2) 新妻 弘著,「可換環論の様相」,大学数学スポットライトシリーズ第7巻,近代科学社

  より専門性が増したものとしては,以下の名著があります.

  (3) 成田 正雄著,「イデアル論入門」,共立出版
  (4) 松村 英之著,「可換環論」,共立出版

  体とガロア理論 対象:2, 3回生

  環論のところでも挙げた,

  (1) 松坂 和夫著,「代数系入門」,岩波書店
  (2) 彌永 昌吉・有馬 哲・浅枝 陽著,「詳解 代数入門」,東京図書

  は体論の基礎を勉強する際に良かった記憶があります.ただ,ガロア理論をしっかり身に付けたいのであれば,

  (3) J. Rotman著,関口 次郎著,「ガロア理論」,丸善出版
  (4) E. Artin著,寺田 文行訳,「ガロア理論入門」,ちくま学芸文庫

  くらいは腰を据えてじっくり読むといいでしょう.色んな多項式のガロア群を計算できるようになります.懐かしい思い出です.

  (5) 藤崎 源二郎著,「体とガロア理論」,岩波基礎数学選書

  はガロア理論や体論を体系的に網羅したものである意味で辞書的なものかもしれませんが,藤崎先生の他の著書と同じように豊富な例が記載されています.

  ホモロジー代数(チェイン複体,Ext,Torなど) 対象:3回生

  純代数的に平易に解説されているものとしては,

  (1) 河田 敬義著,「ホモロジー代数」,岩波基礎数学選書
  (2) 秋月 康夫・鈴木 通夫著,「代数 II」,岩波全書

  がお手頃だと思います.

  代数的整数論(デデキント環,有理素数の分解,類数計算あたりまで) 対象:3, 4回生

  平易な解説と多くの具体例や計算例が書かれている本としては,

  (1) 藤崎 源二郎著,「代数的整数論入門 上下」,裳華房
  (2) 山本 芳彦著,「数論入門」,岩波書店
  (3) 藤崎 源二郎・森田 康夫・山本 芳彦著,「数論への出発」,日本評論社

  が読みやすかったです.(1)は特に例が豊富で,基本単数や類数,3次体や円分体の整数底の計算例などもあり本当に楽しかったです.下巻では相対代数体の理論が書かれています.2次体の整数論をしっかり勉強したいのであれば,

  (4) 高木 貞治著,「初等整数論講義」,共立出版

  が良いでしょう.高次相互法則への入門としては,

  (5) 平松 豊一著,「相互法則入門」,牧野書店

  が良いと思います.有理数体上の純3次拡大体の整数環における有理素数の分解を,二次形式や保形型式の言葉で記述する例がいくつか紹介されています.以前に,本学の数論の講義を担当した際にも活用させていただきました.

  組み合わせ群論(群の表示,Tietze変換,自由群など) 対象:4, 修1回生

  一般的な教科書としては,

  (1) D. Johnson, 「Presentations of Groups」,Cambridge University Press
  (2) Magnus, Karrass and Solitar,「Combinatorial Group Theory」,Dover Books on Mathematics
  (3) Lyndon and Schupp,「Combinatorial Group Theory」,Springer

  が良いでしょう.幾何学的群論寄りのものとしては,

  (4) Pierre de la Harpe,「Topics in Geometric Group Theory」,University of Chicago Press

  も良いでしょう.Commutator Calculusに興味がある方は上記(2)の他に,

  (5) M. Hall,「The Theory of Groups (2nd edition)」,American Mathematical Society

  も良いと思います.(1)などを参考にして以下の拙著を執筆しました.

  (6) 佐藤 隆夫著,「群の表示」,大学数学スポットライトシリーズ第6巻,近代科学社,訂正表(2020.1.9.更新)



  位相幾何系

  基本群と被覆空間 対象:3, 4回生

  (1) 松本 幸夫著,「トポロジー入門」,岩波書店
  (2) 久我 道郎著,「ガロアの夢」,日本評論社
  (3) 加藤 十吉著,「位相幾何学」,裳華房

  (1), (2)は解説が大変丁寧です.(3)は基本群のほかに,位相空間のホモロジーについてもしっかり記載されています.
  ファンカンペンの定理はしっかり使いこなせるようにしておきましょう.本気で位相幾何を学ぶのであれば,

  (4) 服部 晶夫著,「位相幾何学」,岩波基礎数学選書

  が一通り読めればかなり力が身に付くのではないかと思います.

  ホモロジー群(単体複体,特異複体,胞体複体) 対象:3, 4回生

  (1) 田村 一郎著,「トポロジー」,岩波全書
  (2) 河田 敬義著,「位相幾何学 (現代数学演習叢書 2)」,岩波書店
  (3) 田中 利史,村上 斉著,「トポロジー入門」,サイエンス社
  (4) 枡田 幹也著,「代数的トポロジー」,朝倉書店
  (5) 加藤 十吉著,「位相幾何学」,裳華房

  (1)は単体複体のホモロジー群の基礎をしっかり学べます.(2)はいろいろな例を扱っている良い演習書です.
  (3)は単体複体のホモロジーの計算例がたくさん紹介されています.(4)は特異複体,胞体複体の解説が丁寧です.
  以下の(6)がしっかり読めれば力が身に付いたと思ってよいでしょう.

  (6) 服部 晶夫著,「位相幾何学」,岩波基礎数学選書
  (7) 小松 醇郎著, 中岡 稔著, 菅原 正博著,「位相幾何学I」,岩波書店

  (7)はかなり分厚いですが,位相幾何に関する内容が網羅的に記載されています.辞書的に必要な知識を調べて勉強するという感じが良いかもしれません.

  位相群 対象:3, 4回生

  (1) ポントリャーギン著,柴岡 泰光・杉浦 光夫・宮崎 功訳,「連続群論 上下」,岩波書店
  (2) 横田 一郎著,「群と位相」,裳華房
  (3) 村上 信吾著,「連続群論の基礎」,朝倉書店

  (1)は学部時代の指導教官に勧められて,岩澤先生の代數函數論と一緒に読んでいました.遠い昔の記憶です.20年ぶりにノートを引っ張り出してきて本学の講義でも活用しました.
  (2), (3)は線型群の位相構造が詳しく解説されています.特に,(2)は横田先生自身の結果による線型群の胞体分割についての記載があります.

  ファイバー束とホモトピー群 対象:3, 4回生

  (1) 玉木 大著,「ファイバー束とホモトピー」,森北出版
  (2) 横田 一郎著,「群と位相」,裳華房

  (1)はファイバー束を考える意義や意味などをしっかり把握しながら学べる良書です.(2)はいわゆる主に古典群に関するものですが,中盤のホモトピー群の解説は基本的なこと(完全系列など)がコンパクトにまとまっていてよかったです.

  (3) 服部 晶夫著,「位相幾何学」,岩波基礎数学選書
  (4) Steenrod著,「The Topology of Fibre Bundles」, Princeton University Press

  はともに名著とされる本です.必要に応じて参照すると良いかもしれません.(3)はスペクトル系列の解説が詳しいです.





最終更新日:2020年12月24日.