2006年度 修士論文要旨


腸内連鎖球菌V型ナトリウム輸送性ATPase触媒頭部部分の構造と機能

新井聡史

 イオン輸送性ATPaseは、細胞内イオン環境の恒常性維持に重要な役割を果たす膜 タンパク質の一群である。その一種であるV型ATPaseは、真核生物の細胞内酸性小胞 の酸性化などの重要な役割を担っている。構造は親水性の触媒頭部部分であるV1と、 膜内在性のイオン透過部分であるVOから構成される。V型ATPaseと進化的に関係があり、 その構造や機能が類似しているF型ATPaseのF1部分は1994年に結晶構造が報告され、 構造情報を基にした触媒機構の解明が進んだ。一方、V1部分の構造は未解明のまま である。F1におけるγサブユニットのように、V1における中心軸であるDサブユニット を含む複合体の構造の解明は回転触媒機構の研究に重要な役割を果たす。

 この報告では、V1の結晶構造解析を目指し、V1の精製・結晶化を行い、X線回折像を 得た結果を報告する。従来の方法を用いて精製を行い、結晶化条件の検討を行った。 結晶化条件のパラメーターに依存して多様な型の結晶を得ることが出来たが、高 解像度の構造解析には至らなかった。そこで精製の効率化や、精製標品のストイキオ メトリーの均一性を向上させるために、DサブユニットにHisタグを導入して腸内連 鎖球菌の細胞質画分からV1-Hisを精製可能な新たな系を構築した。この系によって 精製したV1-Hisは従来の精製方法を用いた場合と同程度の比活性を持っており、 その収率は約5倍に向上した。得られた精製標品の至適pHや基質への親和性などの 生化学的な性質は、野生型と同等であった。さらに、V1-Hisの結晶構造解析を目指す ため、V型ATPaseやF型ATPaseの典型的な阻害剤として知られるADPやAMP-PNPなどの 影響を調べた。今後はこれらの知見を基に、V1の結晶化および構造解析を目指す。


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