2005年度 修士論文要旨


ブラウン動力学/Umbrellaサンプリングによるリガンド結合親和性の算出

原田 和男

 1977年に初めてタンパク質の分子動力学(MD)シミュレーションが発表されたのをきっかけに、 世界中でタンパク質、核酸など、生体高分子のシミュレーションが広く行われるようになった。 生体高分子の物性や構造の解明は医学・薬学、タンパク質工学などの、実用的な面からもその 必要性が高い。特に、生体高分子と薬物のドッキングシミュレーションが医薬品開発などに 必要不可欠な技術となっている。その時、タンパク質-リガンド、タンパク質-タンパク質 相互作用における結合の親和性(自由エネルギー変化;ΔG)の算出が要求される。

 しかし、このΔG値を直接計算機シミュレーションで求めることは現実的には非常に難しいと されている。それは、タンパク質-リガンドやタンパク質-タンパク質結合反応に際し大きな構造 変化があり、その反応がμ-m秒レベルでおこるため、MDでその過程を追跡するのが難しいから である。しかも、計算精度を上げるため膨大な数の水を発生させてシミュレーションするので、 系の自由度が非常に大きくなることにも由来する。

 本研究室の安藤らは長時間シミュレーションを可能とするブラウン動力学法を開発した。 そこで、そのブラウン動力学法(BD)を使った自由エネルギー計算法の開発を試みた。BDでは 水分子を明示的に扱わず、水和モデルを利用している。そのため、系の自由度はMDと比べて 著しく小さくなり、しかもブラウン運動という確率論的な手法を利用するため、長時間の シミュレーションが可能となっている。本研究は、このようなBDの利点をいかし、Umbrella サプリング法を用いて、タンパク質−リガンドの結合過程のΔGを直接算出することに適用した。

 まず、モデルとして2残基のペプチドを使い、MD/Umbrellaサンプング法(Brooks et al.,1990) の結果と比較し、BD/Umbrellaサンプリング法の有効性を確認した。その結果、得られたΔGのプロ ファイルが既知データと良く一致していた。次に、WWドメインをもつペプチドとそのリガンドの 複合体モデル(PDB ID:1i5h)を使用してΔGの算出を試みた。その結果、得られたΔGは実験値に 近い値となり、結合親和性の見積もりがシミュレーションによって可能であることを示すこと ができた。この方法は生命科学の基礎・応用研究で有効になると期待できる。


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