1998年度 修士論文要旨


タンパク質折り畳み過程の分子動力学シミュレーション

岩佐 光輝

 タンパク質が生物学的な活性を持つためには、特定の三次構造に折り畳まれることが 必須である。タンパク質の折り畳み過程は、自由エネルギーの曲面を下ることで進行す ると考えられている。その律速段階に位置する遷移状態は、高エネルギー状態であり微 小な時間しか存在しないため実験的に観測することは難しい。しかし、高い時間空間分 解能をもつ分子動力学シミュレーションならば、それらの情報を得ることが可能である。 本研究では、熱変性過程での遷移状態周辺からのリフォールディング過程のシミュレー ションを行なった。

 材料は細菌の糖輸送に関与する低分子量タンパク質、ヒスチジン含有タンパク質(HPr) である。シミュレーションによる熱変性過程で得られた構造のうち80〜150ピコ秒間の各 種構造を初期構造として、室温での分子動力学シミュレーションを行い、初期構造に依 存する物性やエネルギー状態を解析した。

 遷移状態の手前と思われる構造を初期構造とした場合、速やかにリフォールディングが 進行し根平均二乗変位や露出表面積、タンパク質のポテンシャルエネルギー等がコント ロールのシミュレーションと似た状態に収束していった。それ以降の構造を初期構造と した場合、数百ピコ秒間安定な中間状態が見られた。このことから、HPr折り畳みの遷移 状態は、エネルギー的に異なったいくつかの状態をとり、その間に準安定な状態が存在す るラフネスモデルであることが示された。

 以上本研究では、タンパク質折り畳み過程遷移状態の構造的・エネルギー的特徴を明ら かにすることができた。


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