2010年度 修士論文要旨


大腸菌ポリンイオン透過の分子動力学シミュレーションによるイオン選択性機構の研究

松浦 泰大

 大腸菌外膜ポリンはイオンや親水性低分子を透過させるチャネルタンパク質である。 実験により一価の陽イオンの透過特性が求められており、濃度勾配のある溶液下での 拡散電位の測定では、イオン半径が小さいほど透過性が高く、一方、均一な溶液下 電位勾配によるコンダクタンスの測定を行うと、拡散電位の場合とは反対の結果を 示した。また、実験以外の手法として計算機シミュレーションにより、ポリン中央の Asp113がイオン透過において重要な役割を果たすことが示され、イオン結合の自由 エネルギー計算により拡散電位測定で得られたイオン選択性をうまく説明できた。

 しかし電位勾配に従う場合のイオン選択性機構は未解明のままであり、また化学 工学などでも利用されるイオン透過膜の選択性とも深くかかわると予想されること から、詳細なイオン選択機構解明のため、本研究では電場中でのイオン選択性に着目 して研究した。脂質を含む全原子モデルによる分子動力学シミュレーションを行い、 ポリンの入り口にNa+を置き、電場を掛け透過させた。

 トラジェクトリーの解析の結果、Asp113に同時に2個のイオンが結合している状態の 安定性が透過の選択性を決定しているという仮説を立てた。そこで、この状態でのNa+ とLi+の結合親和性を比較するため、自由エネルギー計算を行った。その 結果、Na+よりもLi+が2個結合した状態の方が結合親和性が 高かった。この結果はコンダクタンスの実験結果と一致するものであった。今後、 大きさの異なる一価の陽イオンで、定常的なイオン透過のトラジェクトリーを得る ことができれば、上記の結果と合わせてポリンのイオン選択性、さらには広く利用 されているイオン透過膜のイオン選択性機構を解明できると期待している。


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