1996年度 修士論文要旨


腸内連鎖球菌V型Na輸送性ATPaseの精製と再構成

村田 武士

 腸内連鎖球菌は、耐塩・耐アルカリ性細菌である。その耐性は細胞膜に存在するNa輸送性ATPaseによって 担われている。当研究室の高瀬は、その遺伝子群をクローニングし塩基配列を決定して、それが典型的な真核 細胞型のV型ATPaseであることを示した。真核細胞の細胞内酸性小器官やある種の細胞膜に存在するV型H-ATPaseは、 その内腔酸性化を行う本体であり、細胞生理にとって大変重要な役割を果たしている。しかし、真核細胞を 研究対象とするため、分子生物学・生化学的研究が遅れていた。そこで、オペロンを構成する本細菌のNa-ATPaseの 分子生物学・生化学的研究による成果が待ち望まれている。

 私は,本遺伝子群ntpFIKECGABDHJのmRNAの解析から一つのオペロンを形成していることを示し、転写開始領域を 決定した。各種培養条件下(Na濃度、pH、モネンシン存在下など)での本オペロンのmRNA量、酵素量及び活性を定量的に 解析した結果、本遺伝子群の発現が細胞内Na(Li)濃度を直接のシグナルとして転写レベルで制御されていることを示した。 クローニングした遺伝子を用いた増幅生産株の膜小胞から本ATPaseを可溶化し、グリセロール密度勾配遠心により精製を行い、 ATP依存のNa輸送活性のあるリポソームへの再構成に成功した。精製標品には、 K輸送体に類似するntpJ遺伝子産物が 含まれていなかった。そこで、ntpJ遺伝子の破壊株を作成し性質を調べた。NtpJタンパク質はKtrII活性(H駆動力に依存 しないKの能動輸送活性)の必須構成因子であり、 Na-ATPaseとは機能的にも独立していることを明らかにした。これは、 H駆動力の形成されないアルカリ環境下で生育する本菌の細胞内Na、K濃度調節の中枢である両遺伝子が、一つの オペロンを形成しているという興味深い結果であった。

 以上本研究により,本菌の耐塩・耐アルカリ性を担う因子としてのNa-ATPaseの重要な役割を示すことができた。


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