2012年度 修士論文要旨


腸球菌V型Na+-ATPase触媒サブユニットAの構造とAB複合体の結晶化

齋藤 靖子

イオン輸送性ATPaseは生体内のイオン環境の恒常性維持に働き、生物に普遍的に存在しているタンパ ク質群である。その一種であるV型ATPaseは真核細胞の酸性小胞の酸性化を担う本体として知られて いる。V型ATPaseの構造は親水性触媒頭部部分であるV1と、膜内在性イオン透過部分である Voからなる。V1部分は単独でATPase活性をもつことから、V1-ATPase とも呼ばれており、回転触媒機構により駆動される回転分子モーターである。V1-ATPaseは A:B:D:F=3:3:1:1というストイキオメトリーをもつ分子量約400 kDaの複合体である。

 本研究室では、E.hirae由来のNa+輸送性V型ATPaseについて生化学的・構造学的 研究を行ってきた。これまで、V1-ATPase に関してA3B3、A3 B3DF、DFの結晶化に成功しており、構造解析が試みられてきた。また、その構造情報や、 生化学的知見をもとに、V1-ATPaseの複合体形成メカニズムや回転触媒機構についても モデルを構築しているが、詳細が不明な部分もある。サブユニット単体や、中間体の構造情報はこ れらのメカニズム解明のための重要なパラメーターになると考えられる。

 本研究では、複合体形成メカニズムや回転触媒機構の解明を目的とし、Aサブユニットの結晶化、構造解析 とA1B1複合体の結晶化を行った。まず、Aサブユニットの精製、結晶化、X線回折 実験を行い、構造を決定した。その構造はA3B3、A3B3DF 複合体のAO、AC、ACRのどれとも異なっていた。一方、P-loopや基質の結合に直接関わる残基は、AC、 ACRと似た構造をしていたが、Arg262は逆向きになっていた。Aサブユニットの基質結合による構造変化の 比較を行うため、基質結合状態の構造情報を得ることが次の課題である。A1B1複合 体の結晶化を目指し、A3B3複合体を形成せず、A1B1複合体 を形成するような変異をA、Bサブユニットに入れた。その結果、A3B3複合体のリン グ部分がA3B3複合体の構造形成に重要であることが示唆された。Aサブユニットと 変異体BサブユニットからA1B1複合体を再構成し、ゲル濾過クロマトグラ フィーで精製を行った。結晶化の結果、針状の結晶を観察することができた。今後、構造解析に十 分な良質な結晶を得るために、結晶化条件の精密化が必要となってくる。


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