1996年度 修士論文要旨


大腸菌プロリン輸送タンパク質の構造の研究

須藤純一

 タンパク質の構造・機能相関を原子レベルで理解するには、X線結晶構造解析が有効である。しかし、膜貫通型 タンパク質の結晶を得るのは困難である。従って、突然変異体等を用いた分子生物学・生化学的研究により得られる 構造と機能についての情報は重要である。本研究では、大腸菌プロリン輸送タンパク質の各種変異体を用いて共役イオン 結合部位の構造及び構造トポロジーを推定した。

 プロリン輸送タンパク質は、共役イオンであるNaの電気化学的濃度勾配差を利用してプロリンを細胞内に輸送する 二次性能動輸送系である。共役イオンに対する見かけの親和性が変化したG22E、C141Y及びR257C変異体の研究から、機能的に Gly22 や Cys141 は本輸送タンパク質の外側でのNa結合領域を形成し、Arg257は内側での結合部位を形成していると考えられていた。 そこで、G22E と R257C、C141Y と R257C の各二重変異体を作成した。これら二重変異体の性質から、本輸送タンパク質のNa結合部位は、 膜の内外で構造的にも独立であることを推察した。

 本輸送タンパク質には、その膜貫通領域(I〜XII)に、5個の Cys (12(I), 141(III), 281(VII), 344(VIII), 349(VIII))が存在する。 また、SH試薬であるNEM(N-エチルマレイミド)により輸送活性が阻害される。このNEMによる阻害は、Naとプロリンの存在 により保護される。よって、本輸送タンパク質にはNEM反応性のCysが基質結合部位またはその近傍に存在することが示唆されていた。 そこで、CysをSerに置換した様々な組み合わせの変異体を作成、各変異体の輸送反応におけるNEM感受性を調べた。その結果、 膜貫通領域I、VII、VIIIはお互い近傍に位置して基質結合に関与し、IIIはそれらと離れた位置で共役イオン結合に関与 していることを推察した。

 以上本研究では、分子生物学・生化学的研究により、高分解能の構造解析が困難な膜タンパク質の構造について重要な知見を 得られることを示すことができた。


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