鈴木 健二
このうちF型ATPaseはミトコンドリア内膜などに存在しADPと無機リン酸からATPを合成する酵素で、1994年にF1部分の構造が明らかとな った。一方で、V型ATPaseは真核生物の細胞内酸性小胞の酸性化を担う本体として知られていた。しかし、これまではその研究対象が真核生物のオル ガネラに限られ、また非常に失活しやすく大量精製が困難であったために十分な研究が行われて来なかった。近年では複数の研究グループにより 様々な精製法が確立され、これによりさまざまなオルガネラからV型ATPaseが単離され、その機能についてもさまざまな研究がなされ、他の酵素との 比較もなされてきている。しかし、構造については各サブユニット単体の構造や、電子顕微鏡像をもとにした構造解析、結晶化・回折斑点データなど が報告されてきているが、V1-ATPaseの原子レベルでの立体構造すらも明らかにされていない。
所属研究室では腸内連鎖球菌(E.hirae)由来V型ATPaseの分子生物学、生化学的研究が行なわれ、V1-ATPaseの大量発現・精製法が 開発されていた。私はこの方法を用いて精製を行ない、結晶化条件を検索し、V1-ATPaseの結晶を得ることが出来た。しかし、分解能が低く、 結晶性も悪いために構造解析には至らなかった。これはV1-ATPaseの精製状態、もしくは結晶化条件が適当ではなかったためと考えられた。
そこで、私は新たな精製方法の確立と結晶化条件の再検討を行なった。V1-ATPaseの膜からの遊離にはEDTA処理ではなく、クロロホルム処理 を用いた。また精製過程全体に2 mM Mg2+-ADPを加えた溶液を用いた。V1-ATPaseの遊離に際しては、従来と同程度の比活性の標品 が得られた。また、疎水クロマトグラフィーを用いた簡便な精製法を確立し、20 L培養あたり2〜3 mgと、従来法より高い収率で精製標品を得ることがで きた。結晶化ではpH 6-7.5、7.5-15% PEG8000、0.2 M Na-AcetateなどでV1-ATPaseの板状結晶が再現性よく得られた。しかし分解能は低く 解析には至らなかった。やはり、結晶化条件をさらに広範囲で検討する必要がある。