2007年度 修士論文要旨


分子動力学/自由エネルギー計算によるF-ATPase触媒部位への基質結合親和性の算出

梅津倫

 ATP合成酵素であるF型ATPaseはほとんどの生物に存在する膜貫通型タンパク質である。 F型ATPaseの膜外突出部位は特にF1-ATPaseと呼ばれ単体でATPase活性を持つ。 ATPase活性を持つ最小単位はα3β3γ複合体であり、触媒部位で ある3つのβサブユニットはATP結合型(βTP)、ADP結合型(βDP)、空の構造(βE)の3つの 異なる構造をとっている。ATPの加水分解反応に共役したγサブユニットの回転が観察され、 加水分解、βサブユニットの構造変化、γサブユニットの回転が共役すると考えられる ようになった。βサブユニットの3つの構造は異なる基質親和性を持つとされ、実験的に 基質親和性の測定・見積もりがなされてきた。しかし、ADPの親和性に関して未知の部分 もあり、また、γサブユニットの回転をもたらすβサブユニットの構造変化も解明され ていない。そこで分子動力学法/自由エネルギー計算により、触媒部位の基質ATPとADPを 相互変換したときの自由エネルギー差を見積もりつつ、さらにその基質変化に伴うβサブ ユニットの構造変化を観察した。ATPとADPの変換では電荷の変化を伴うため、静電相互 作用を厳密に計算に取り入れる等の工夫が必要であった。

 その結果、βDPの構造が最もADPとの結合親和性が高かった。この算出値は一分子観察の 結果から推測された加水分解反応モデルを熱力学的知見から裏付けるものであった。 さらに、βサブユニットの構造変化とγサブユニットの回転を共役する役目を持つと考え られているDELSEED配列(Asp394〜Asp400)付近の構造変化を観察したところ、基質変換に 伴い、期待される構造変化が確認された。これはGrubmullerらによるγサブユニットの強 制回転のシミュレーション結果と同様であった。DELSEED配列近傍のPhe418〜Gly426は触 媒反応と構造変化、回転を共役するのに重要な残基であることが考えられる。以上の結果、 ATP加水分解・Piの放出に伴い、DELSEED配列付近の構造が変化し、それがγサブユニット の回転をもたらす分子機構の様子が明らかになった。


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