吉川 寧
イオン輸送性ATPaseであるF-ATPaseとV-ATPaseは分子的に近縁であり、その構造も類似して いると考えられる。しかし、それらの非触媒サブユニットにおいて、前者は一次構造上ATP結合 モチーフを持つが後者は持たないなどの違いもある。F1-ATPaseでは非触媒ATP結合 部位にATPが結合することが明らかにされているがV1-ATPaseでは明白ではない。 F-ATPaseはF1部分のX線結晶構造が明らかにされ大きく発展してきたが、V-ATPaseの 構造解析はなされておらず研究が遅れている。そこで本研究ではV1-ATPaseの非触媒 サブユニットの構造をF1-ATPaseの非触媒サブユニットを用いて比較モデリングを試みた。
F1-ATPaseの結晶構造とV1-ATPaseのモデル構造の非触媒ヌクレオチド 結合部位を比較した。鋳型の構造においてATPの結合に関与する残基のうち、ATPのγphosphateと 相互作用しているLys175はモデル構造ではLys158であり保存されていた。Mg2+と相互 作用しているThr176とAsp269は、V1-ATPaseではGlu159、Thr248になっていおり、 お互い負電荷を持つ残基であった。この領域の表面電荷を比較したところ、両構造は非常によ く似た傾向を示した。このことは、V1-ATPaseの非触媒サブユニットにはATP結合モ チーフが存在しないがF1-ATPaseと同様にATPと結合する可能性を示唆するものである。
ドラッグデザインなどの問題においてリガンドとレセプターとの結合自由エネルギーの評価法は 極めて重要であり、その最も厳密な手法として自由エネルギー摂動計算がある。この手法は良い精 度で予測できるが長い計算時間を要するため実用的ではない。一方、多くの半経験的な方法は計算 時間や精度に問題がある。そこで本研究では自由エネルギー変分原理に基づいた効率の良い結合エ ネルギー評価法の開発を目指し、この変分原理の有効範囲を探るためにカテプシンK-リガンド複合 体の分子動力学計算を試みた。
エネルギー極小化から見積もった結合自由エネルギーは、一つの化合物を除き実験値と良い相関 を示し、分子動力学計算を行なうとその化合物についても結果は改善された。相関係数の値は、 構造の平衡化を十分行なうことによりさらに改善されることが期待される。
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