超伝導研究の始まりは1911年に行われたHeike Kamerlingh Onnesの水銀を用いた実験で,温度が4.2 Kを下回ったとたんに水銀の電気抵抗が不連続的にゼロになることが発見されました[H. KamerlinghOnnes, Leiden Comm. 120b, 122b, 124c (1911).]. このゼロ抵抗状態は通常の金属状態とは異なる新たな相として大きく注目され,理論面からも盛んに研究がなされましたが,金属の超伝導現象の理論的解明は40年以上後の1957年にBardeen, Cooper, Schriefferの3名によるBCS理論が発表されるまでかかりました.超伝導理論の構築に長い年月がかかった原因はBCS理論の結果からすると超伝導現象が摂動論では取り扱いができないことが原因だったと言われています. このBCS理論では2つの電子がペアを組んでボゾンとして振る舞い,全ての超伝導電子対が一つの波動関数に従うというモデルに基づいており,このBCS波動関数の正しさは理論の発表後すぐに,NMR実験によって実証されました. 他にも超伝導状態下での比熱や磁場侵入長の温度依存性などもBCS理論に基づいてよく説明され真下.さらに超伝導転移温度の上限も30~40 KであろうというBCS理論に基づいた予想が現れつつも,様々な超伝導物質の探索が進みましたが,この予想が破られるのは後の銅酸化物高温超伝導体の発見になります.
銅酸化物超伝導体の前に,BCS理論の枠組みに当てはまらない超伝導体としてCeCu2Si2が報告されました. CeのようなランタノイドやUのようなアクチノイド系元素を含む金属では高温では局在性の強いf電子が低温では近藤効果を通して伝導電子のバンドと混成することで 非常に強い電子相関を持ち,電子の有効質量が自由電子の数百~数千倍にまで重くなった"重い電子系"を形成するものが見られます. この業界でいう電子相関とは電子間に働くクーロン斥力のことでありCeCu2Si2では重い電子が超伝導を担っていることが報告されました. このような強い電子相関の下での超伝導対の形成は従来のBCS理論では説明がつかず,超伝導の枠組みを広げるきっかけとなったといえます.
超伝導の歴史のうえでとりわけ重要な出来事としてBednorzとMöllerによる銅酸化物超伝導体La2−xBaxCuO4の発見[J. G. Bednorz and K. A. Muller; Z. Physik B 64, 189 (1986).]が挙げられます(当時は複数相混合した焼結体でどれが超伝導を示しているのかわかっていませんでしたが,後に高木 英典氏らによって注目している超伝導体がLa2−xBaxCuO4であることを明らかにされました[H. Takagi et al. Jpn. J. Appl. Phys. 26, L123(1987).]).この銅酸化物超伝導体のインパクトが大きかったのは,30 K近くもある高い転移温度を有するだけでなく,酸化物としては初の超伝導体であり,新超伝導物質探索の幅を大きく広げるきっかけためです.その後,銅酸化物を中心に様々な超伝導体が発見され,翌年の1987年にはChuらによって液体窒素温度77 Kを上回る90 Kで超伝導転移するYBa2Cu3O7−δが報告される(こちらも初めは結晶構造が分かっておらず,後ほど明らかになりました[R. J. Cava, et l., PRL. 58, 1676(1987). F. Izumi, et al., Jpn. J. Appl. Phys. 26,, L649 (1987).])など次々に超伝導転移温度が更新されていき,大気圧下ではHgBa2Ca2Cu3O8+δが示す133 K が最高値となりました[A. Schilling, et al., Nature 363, 56(1993)].
様々な超伝導物質が報告される中で特に最近,研究規模を大きく広げたのは鉄系超伝導体です. 鉄系超伝導体の最初の報告は2008年で,東工大の細野秀雄教授のグループによってLaFeAsO1−xFxにおけるフッ素の置換量がx=0.05-0.12のときに26 Kで超伝導が現れることが示されました[Y. Kamihara, et al., J. Am. Chem. Soc. 130, 3296(2008)]. ここから超伝導研究のブームが再来し,現在の鉄系超伝導体はその結晶構造(組成式)に基づいて,11系,111系,122系,1111系,11111系のように分類されています. とりわけ最近注目を集めているのは11系のFeSeという超伝導物質で,大気圧下での転移温度は約9 Kであるものの,圧力を約6 GPa(6万気圧)程かけるとその転移温度は4倍近い37 Kにまで上昇するという非常に圧力敏感な性質を含めて精力的に研究がなされています.
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