前節で出てきたJefimenko方程式を遅延時刻tr(遅延時刻と呼ばれるが、時刻tよりは前の時刻)から、同時刻に直すためにJ(r',tr),ρ(r',tr)を展開すると、
が得られるので、これをJefimenko方程式に代入すると
と表現することができる。
ここで、Jefimenko方程式を展開した式について静的極限を考えることにより、Coulombの法則、Biot-Savartの法則、Ampereの法則に関してその適用範囲を考察してみる。
その例として、第1節で示したコンデンサーについて考えてみると電荷密度ρは時間に関してlinearで、電流Jは時間に関してconstant(Semistatic)である。そこで、まず、磁場を求めてみよう。Jはconstantであるから、微分してしまえば消えてしまう。すると、これはBiot-Savartの法則
と一致する。求められる磁場も時間には依存しない。
今度は電場を求めてみる。ρはlinearであるため、二回微分で消えてしまう。Jはconstantであるから微分すれば消えてしまう。すると、Coulombの法則
と一致する。しかし、ρはlinearなためにそれによって求められる電場も時間に関してlinearとなる。すなわち、ρが時間に関してlinearの場合のようにstaticな状態でなくともCoulombの法則はそのまま成立し、そこから得られる電場が時間に関してlinearであることも分かる。
また、Ampere-Maxwellの法則
から、電場が時間に依存することから変位電流の項が必要となりAmpereの法則
は成立しない。
同様にしてρとJの時間依存性とCoulombの法則、Biot-Savartの法則、Ampereの法則の適用範囲とその状況における電場、磁場の時間依存性を次のように階層化することができる。
電荷密度と電流の時間依存性による階層化
(最も左の欄のhierarchy(階層)は便宜的に名前を付けたものである。)
この表から、教科書などで説明されることがある準静的(quasistatic)な場合という曖昧な表現が実際にどんな場合なのかを知ることが可能となる。また、次章からもこの表を利用して議論を進める。
このようにJefimenko方程式からはCoulombの法則やBiot-Savartの法則を導くことも出来るし、その境界も明らかにしてくれるという非常に有用で奥が深い方程式であると言える。