ヒトを含むすべての多細胞生物の生命活動は、様々な機能をもつ細胞が協調的に働いたり互いに制御し合ったりすることで成り立っています。その際に必要となるのが細胞間コミュニケーションです。細胞は、近くにあるものどうしだけではなく遠く離れた場所にある場合も、ネットワークを形成し多様な手段を用いてコミュニケーションを図っています。タンパク質にはそのような細胞間のコミュニケーションにかかわり情報伝達の仲介をするものが少なくありません。私たちの研究の目的は、細胞間コミュニケーションにかかわる新しいタンパク質を発見し、それがどのような方法で情報を伝達しているのかを解明し、その仕組みが他の情報伝達系とどのように絡み合っているのか、生命活動維持に対しどのような意義があるのか、などの点を明らかにしていくことです。


血管新生制御機構と血液凝固・線溶系との関連における分子動態の解析

近年,創傷治癒の過程において,血液凝固・線溶系のいくつかの因子が血管新生制御機構に関わっているとの知見が得られるようになってきました。創傷治癒過程は,凝固・線溶系と血管新生とのバランスの上に成り立っており,損傷→凝固→新生→線溶という時間の流れの中で,様々な因子が動的に相互作用を及ぼしあって起こります。またこれらの現象を制御するうえで重要な鍵を握っているのが血管内皮細胞です。この細胞は損傷と新生に直接関与しているだけでなく,凝固・線溶すべての反応が整合性を持って起こるために最適な環境を作り上げているからです。本研究は,血管新生制御機構の動的解析を目標としています。 
 

卵胞発育を制御する細胞間コミュニケーション機構の解明

ヒトの卵巣には生まれながらにして約100万個の卵胞が用意されていますが、そのうち一生の間に成熟して排卵されるものは約400個のみです。つまりなんらかの方法によって毎回1個の卵胞が選ばれ排卵されるわけです。ここでおこる卵胞の選択には、異なる発育段階にある卵胞間のコミュニケーションが必要であると考えられています。さらに、選ばれた卵胞は様々な因子の作用を受けて発育・分化し、卵母細胞とそれを取り囲む細胞との間で互いにコミュニケーションを取り合い排卵可能な状態へと成熟してゆきます。私たちは、様々な因子が成熟すべき卵胞の選択を行い、発育・文化を制御する機構について研究しています。

 

サイログロブリンの新しい機能探索

サイログロブリンは甲状腺で特異的に合成される分子量約67万の巨大な糖タンパク質で、分子中に約130万個存在するチロシン残基のうちの20%程度がヨウ素化されています。このヨウ素化されたチロシン残基の一部から甲状腺ホルモン「チロキシン」が合成されることから、サイログロブリンは甲状腺ホルモンの前駆体や運搬装置・貯蔵庫としての役割をもつ分子であると考えられています。しかし分子量わずか777のチロキシンの合成担体として働く為だけに67万もの巨大な分子が必要なのでしょうか。私たちは、このような巨大分子がこれまでに知られていない新しい機能をもっているのではないかと考え、その探索を試みています。

 

癌細胞転移の分子機構解明 

 「転移さえなければ癌はそれほど怖い病気ではない。」と言われるように、癌細胞の転移機構を解明することは現在最も重要な課題の一つです。腫瘍の転移は、まず癌細胞がもともとあった場所から離れ、周辺組織を破壊しながら移動し、血管内へ侵入した後、血流にのって遠隔組織へ運ばれ、新しい場所で再び増殖を始める、というステップから成り立っています。つまり癌細胞が転移するためには、まず自分自身の運動能を高め、そこから離れる為のエネルギーを獲得する必要があるわけです。本研究の目的は、このような細胞の運動能を制御している新たな細胞運動活性化因子・細部運動抑制因子を発見し、その構造を決定し、さらにその作用機構を解明することです。

 
 
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