当研究室では、電気・電子・情報工学技術を駆使した農業設備・機械の研究開発や食品デザイン関連の研究を行っています。農業や食品に関係する研究テーマは、機電系の研究室ではあまり扱われていませんが、当研究室では特に実用化や製品化を念頭においた応用技術開発を中心に扱います。
- 農業機械・食品機械いろいろ
- 農機具の歴史は古く、人類の歴史と同時に語ることがふさわしいほどの長さがあります。その長い歴史の中で、様々な新発明や改良が行われてきました。現代では、大小様々な農業機械が利用され、その中には食品の調理・加工や保存、流通に利用される食品機械も含まれます。現代は食糧生産のグローバル化や流通や生産の高効率化、市場ニーズの多角化、資源枯渇や新資源開発などなど、人類の「食」にまつわる様々な事象がもはや人力で解決できるレベルをはるかに超えています。世界人口や消費者・産業界のニーズに対応するためには、機械やコンピュータに頼らざるを得ない時代になって久しいのです。
たとえば穀物を例に挙げると、種苗の生産から植え付け、水管理、害虫・病気対策、天候・気候への対処、収穫、ポストハーベスト処理、加工、流通などなど、多くのプロセスを経て私たちの口に入ります。その間、機械設備による省力化がなければ、とても需要を満たすことはできません。ほとんどすべての種類の作物で同様であり、畜産や水産についても機械設備は欠かせません。
現代の農業設備・機械や食品機械の類は、大型・自動制御・センシングといったキーワードが欠かせないものとなっています。そこには必ず電気の存在があります。設備の動力に供給される電力、生産や貯蔵・加工などに使われる熱風・冷気・振動・圧力・回転力などは電気エネルギーで作り出されます。また、機器の自動制御や成分分析、流通などにはコンピュータが欠かせません。「食品機械」などと大げさに聞こえるかもしれませんが、家庭で使っている電子レンジや冷蔵庫、炊飯器、ミキサー、電気ポットなどもすべて食品機械の仲間です。これらの動力はもちろん電気エネルギーですし、内蔵マイコンによる電子制御が当たり前になっています。私たちの食生活はかなりの部分で電気の恩恵を受けているのです。
- 農業分野における電気・電子・情報工学の重要性
- 農業設備・機械や食品機械が電力によって動かされ、電気信号を介したセンシングを行い、コンピュータで自動制御され、高度な情報処理や通信によって農産物や食料製品が流通される以上、農業や食品産業は電気工学・電子工学・情報工学の恩恵無しには成り立ちません。しかし、歴史的経緯により、日本の大学の工学部では農業はあまり扱われてきませんでした。一般に、工学部には「〇〇工学」と称する学問分野が多数存在しています。電気工学や機械工学といった伝統的なものから、生命工学、社会工学、経営工学、医工学といった比較的新しい時代のものまで、実にバラエティに富んだ学部が工学部です。ところが、不思議なことに「農業工学」と称する課程をもつ工学部は無いのです。
農林水産省が提唱している日本の農業の今後のビジョンを見る限り、農業における電気・電子・情報工学の重要性がはっきり見えてきます。
農業分野では「6次産業」という用語があちこちで使われるようになってきました。1次産業+2次産業+3次産業を全部一体化して行うので「6次」だそうです。上記のビジョンもその一環であり、電気・電子・情報の活躍無しにはとうてい実現できません。
- これからの農業工学・食品工学研究
- 今後、農業工学・食品工学の研究はますます盛んになっていくと思われます。人的負担の少ない効率の良い農業、安全安心かつ高付加価値食品の提供、利益を出せる農業、苛酷な自然環境や極限環境下での食料生産技術開発、等々、基礎研究から応用研究までやるべきことが山積しています。その中で、電気電子情報技術は極めて重要な位置を占めており、私たち工学部電気系が役割をこなさなければ、それらの研究は全く進まないことでしょう。
本学工学部電気工学科は、電気・電子・情報工学のすべての領域を網羅した教育を行っており、上記研究に必要な知識や技術を身につけることができます。私たち人間が生きていくために質・量ともに十分食料を確保することは至上命題であり、そのための創意工夫や研究の歴史はとても古く長いものです。そしてそれは人類がある限り続くものであり、私たちの研究すべき問題にも終わりがないのです。
阪田研究室では、これまで農業施設設計や食品品質評価、生物生産物資輸送などの問題に対して、電子・情報工学的なアプローチで取り組んでいます。今後はさらに農業施設や機械の高知能化や、医・工・農の学際研究としての食品デザイン技術の研究開発を進めていきます。 - 当研究室で扱う農業・食品関連の研究テーマ例
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- 異種生体信号の統合解析による食(品)に対する人間の感性の客観的評価技術の開発
- 嚥下障害患者のためのフードデザイン技術の開発
- 腸管運動活性を指標としたフードデザイン技術の開発
- 知能ロボットによる小規模農作業の省力化に関する研究
- 野外農場の防犯技術の研究開発
- 医療診断技術の応用による食品の食感・テクスチャ分析技術の開発