当研究室では、電気・電子・情報工学技術を駆使した医療機器・医療技術および福祉関連技術の研究開発を行っています。信号処理・画像処理・計測制御・知的システムといったキーワードに関連する研究テーマが多いです。
- 医療と福祉
- 「医療」は英語でmedical care、「福祉」は英語でwelfareです。両者は全く異なる意味を持つ言葉であるにも関わらず、「医療福祉」のようにひとまとめにされる場面が多く見られます。さらに「工学」をつけて「医療福祉工学」という言葉も浸透している。ここで、私たちが医療工学(または医工学)と福祉工学を区別するならば、次のように表現します。受益者たる人々について主観的または客観的に見て健康ではない状態、および健康を損なう虞がある状態において、その状態を不満とし、それを改善させるため、またはできるだけ悪化させないための措置を科学技術によって実現する学問が「医療工学」あるいは「医工学」でしょう。一方、人々の置かれた状況や人々の健康状態などについて、その状態をまず受け入れた上で、主観的または客観的に見てその人々が現状より生活しやすい状態・環境を科学技術によって実現する学問が「福祉工学」であると言えるのではないでしょうか。あくまでもこれは私たちの考える表現ですが、両分野の研究を行う研究者にとって、両者の違いを認識することには意味があると考えています。医療と福祉それぞれの本来の目的の違いをいつも心に留め置いておくことによって、医療工学(医工学)と福祉工学の融合をより有意義に導いていけるのではないかと考える次第です。
阪田研究室では、医療と福祉の両方を扱っています。 - 医療と電気・電子・情報工学の関係
- 現代医療は、医療機器の存在無しには成り立ちません。聴診器や注射器のような簡単な造りの器具から、X線CTや人工心肺などの大がかりかつハイテクの機械まで、実に様々な医療機器が利用されています。これらの機器は、大きく分けて診断用機器と治療用機器に分類できます。たとえば診断用機器を例にとると、その種類も実に様々です。聴診器や体温計といった小型かつ簡素なものから、MRIやPETといった大型かつ複雑高機能なものがたくさん存在します。その一方、小型のハイテク機器や大型の簡素な器具もあります。
このように多種多様な医療機器には聴診器や注射器、ベッド、点滴などといった電気と使わずに機能するものがたくさんありますが、現代医療で使われる機器の多くが多かれ少なかれ電気を利用していることも事実です。まず電池が入っていたり、コンセントがついている機器はすべて電気工学の恩恵を受けています。人体の電気現象を利用する機器も多数ありますし、様々な物理量を計測したり人体に作用させたりする機器もほぼすべてのケースで一度は電気信号・電気エネルギーの形を経由します。
多くの医療機器は、その動力として電力を必要とします。加えて、熱したり冷やしたりする類の機器でもエネルギーとして電気を必要とします。それらの機器や精密機械などでは電子制御が行われますし、画像処理や信号処理を行う機器では高度な情報処理が求められます。つまり、医療機器は電気工学・電子工学・情報工学という土台があってこそのものなのです。
一般に、電気工学は電気をエネルギーとして捉える学問、電子工学は電気のことを情報を伝える媒体として捉える学問であると言われます。そして、電子工学で扱った情報の扱い方を考える学問が情報工学です。医療機器はこれらのどの学問領域にも深く関係しており、総合工学である医工学の中核は何と言っても医療機器学です。本学科は「エネルギー・制御」「通信・情報」「材料・エレクトロニクス」という広い3分野を扱う学科ですが、医工学、特に医療機器学を志す人は、これらすべてを修めることが望ましいと言えます。
なお、電気系の特に当研究室が扱う学問領域に軸足を置いて医療機器を研究する人が修めておきたい素養を挙げると、次のようなものが思い当たります。- 信号処理・画像処理
- 電気・電子回路
- センサ技術
- システム制御
- ソフトウェア工学
- 基礎物理学
- 生理学・解剖学
- 臨床医学(自分の研究対象に関する基礎知識)
- 当研究室で扱う医療・福祉関連の研究テーマ例
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- 長時間腸音モニタリング技術関連
- 腹部超音波断層動画像(B-mode動画像)解析技術開発
- 生活支援知能ロボットに搭載する要素技術研究
- 異種生体信号統合解析によるストレス評価技術の開発
- 超音波動画像解析による嚥下障害評価技術の開発
- メンタルヘルスに関する遠隔診断技術の基礎研究
- 長時間継続的な呼吸音解析技術(異常音検出)の研究
- 異常血流音検出技術の開発