(1) A Brain Information-aided Intelligent Investment System
近年,Neuroeconomicsの進展に伴い,特定部位の脳活動が将来のリスクや期待報酬に関する有益な情報を持つことが明らかになっている(Shimokawa et al (2008, 2009)).本システムでは,このような脳科学の発展の金融実務への応用を検討した.具体的には,脳情報を加味することで,自律的な投資システムの効率を向上させうるかどうかを検証した.たとえば,経験豊かな投資家の脳情報は,市場の雰囲気や対人的な心理予測によって,将来の市場動向予想について市場から得られるデータ以上の情報を持っているかもしれない.あるいは市場価格にゆがみを与える意思決定バイアスに関する情報を持っているかもしれない.脳情報は,人間のこれまでの経験や,市場で観測可能な経済量には考慮されてはいない何らかの情報を含んでいる可能性がある.それらの脳情報を適切に抽出し,システムに組み込むことによって,投資システムのパフォーマンスを向上させることができるはずである.
本論文で検討するシステムは,複数人の投資家が同時に投資を行い,その際全員の脳反応を同時計測,リアルタイムに処理し,投資効率を上げるうえで有効な脳情報を,システムにつながった複数人の投資家の中から選択的に取り込もうとするものである.このシステムを用いて投資実験を行った結果,統計量基準(Akaike's Bayes Information Criteria)および予測精度の両面において,脳情報を使用しなかったときよりも投資効率に大きな改善が見られた.具体的には,GARCH / EGARCH型モデルの予測やマコーウィツ型ポートフォリオモデルを,収益率およびシャープレシオ基準でアウトパフォームした.
無論,人間の意思決定は多くのバイアスを持っているため(Berbaris et al (2001), Lo and Rapin (2002), camerer(2005)),投資システムに有効でない脳情報がほとんどであると予想される.しかしながら,システムは投資に有効な個人の脳情報を統計基準によって選択することで,多くの有効でない脳情報を排除することができる.本実験においてシステムの投資パフォーマンスを上昇させえた大きな理由は,このようなシステムの選択性(適応)によると考えられる.