東京理科大学基礎工学部生物工学科の2、3年生の勉強への取り組み方について、ちょっとしたご注意を!

(Copyrights reserved by Ichiro YAMATO. ここの意見は山登個人のものです。(1998年))

勉強への取り組み方について

 今年1月に長万部(基礎工学部の1年生教養課程)に伺いました。その時教養の先生数名の集まりに 出席させていただきました。そこで、その数名の先生からある問題点が指摘されました。その先生方の お名前を出していいかどうか判りませんので、伏せさせていただきます。基礎工学部生物工学科の学生の方は お分かりと思います。つまり、

 「それぞれの講義(遺伝学、社会学、化学、数学)で、統計学が必要なので統計学の基礎を講義する。 ところが、学生に尋ねると、それぞれの統計学が全く別個のものであると受け取っている。」
というものです。このようなことを私も痛切に感じていました。

 何が問題なのでしょう。世間でよく言われているように、受験勉強のための暗記中心のやり方の ためでしょうか?もしそういうやり方をしているのなら、全くその通りだと思います。上記統計学の 問題は、「遺伝学」は「遺伝学」の引き出しに、「社会学」は「社会学」の引き出しに、それぞれすべて 入れてしまおうというやり方のためでしょう。そんな引き出しを沢山作って何になるでしょう?また、 そんな引き出しを何個作れるでしょう。私は1つの引き出しも作ることができません。きっと人間、 世にいわれている天才や秀才でも、沢山の教科でそれぞれの教科の内容をすべて頭に入れることなど 不可能だと思います。そんな人はむしろ異常なのではないでしょうか。

 ではどうすればいいのでしょう。覚えることなどほとんど要らないのです。引き出しは開けておくことです。 その中身はあるに越したことはありませんが、むしろその中の要素がどの程度他の引き出しの要素と 関連づけられているか、が重要なのです。人間の脳の特徴は連想できることです。その特徴を最大限に 利用して下さい。それが考えることに繋がります。そしてその「考えること」はとても愉しいことです。 ゲーム等より余程、そして恋人とのデートやスポーツと同じくらいかそれ以上に愉しいことです。 その愉しさを味わって下さい。

 私は微生物学を講義しています。その「微生物学」の細かいことなど必要ありません。ただ、「微生物学」の 講義はこの時間だけです。将来微生物学をやろうという方のために、世界の最先端に近いところまでご紹介 するべきだと思い、細かいデータもプリントでお渡ししています。それらは、自分が本格的にやり出すとき に参考にしていただければいいものです。覚える必要などありません。さて、講義の中でよく私がいろんな雑談 を入れます。それはとにかく皆さんに他の講義(分子遺伝学、細胞生物学、生化学、物理化学、有機化学 などの基礎で重要なもの)の内容との重複・関連性を気付いていただきたいからです。よく、「話が飛ぶ」 とのご批判を戴きますが、私は敢えてそのようにしています。次の項目に書きますが、生命科学も分子レベル から理解できるようになってきました。そこで、原理的なところ・基礎が重要で、その基礎さえ判ればあとは その応用だけです。これらに共通する基本的な考え方と知識に気付いてください。すると、それぞれを一生懸命 覚えなくても全体として理解できるようになると思います。その上で、それぞれの講義から自分がどの分野 の見方や対象に興味があるかを味見されていかれれば、将来の進路も楽しみになり、その分野の細かいところ も深く勉強したくなると思います。

 上に「覚えることは要らない」と書きました。が、もちろん理科系ですから、蓄積が必要です。高校までの 物理・化学はマスターしておくべきだと思います。さらに、関連させる引き出しの数も自分の底力になります。 教養課程の各種社会科学・人文科学にもどんどん頭を突っ込んでほしいと思います。とにかく、有機的に 関連づけられた要素の種類(引き出しの種類)と数(引き出しの中の知識の量)が重要です。引き出しに 仕舞い込んでしまわないで、関連づける努力をしていただきたいと思います。「微生物学」では 皆さんの頭の中の配線を、外に開かれたものになるように繋ぎ替えようとしているのですが。

生物科学も「サイエンス」になりつつある

 私は、いま生物科学が「サイエンス」になりつつあるところだと捉えています。

 物理、化学、工学の基礎として力学そして量子力学があります。特にその量子力学のお陰で、複雑なこの世の 中の「物」を理解できるようになりました。その基礎・原理が量子力学です。

 生物学はこれまで記述の学問でした。多様な現象をとにかく観察して記述し、その中に含まれている法則性 を見つけだすことが主流でした。しかし今やゲノムが判り、遺伝情報を基に生命の多様な営みを理解できる ようになってきました。原理が明らかになり、その分子の言葉で複雑なこの世の中の「生命」を理解でき るようになりつつあるのです。そして、さらにその複雑な生命活動を理解するために必要なもう一つの原理、 つまり「第二の遺伝暗号問題」であるタンパク質の折り畳み問題にも今や取り組みだしています。その解決 も間近に迫っていると期待しています。このような研究成果を基に生命が論理的に理解できるようになるで しょう。そのような「サイエンス」では沢山覚えるよりも原理に基づいた論理性が重要となります。原理を マスターし、論理性を磨いて下さい。そして、量子力学が「物」についての新たな世界を私達人類に開いて くれたように、DNAとタンパク質についての原理的な理解が「生命」についての新たな学問領域・世界を 開いてくれると信じています。これからは若い皆さんの出番であり、活躍の舞台です。


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