ヒトゲノムプロジェクトが完了し,様々な病気の原因や発症メカニズムがDNAレベルで理解可能な時代が到来した。その結果,病気の治療,診断,予防に関わる医学も今後大きく変貌することは確実である。
当研究分野では,DNAやその転写産物であるmRNAと選択的に相互作用し,標的遺伝子の発現を効果的に制御できる新しい核酸医薬を有機合成化学の手法を駆使して創製することを目指している。
一方,ペプチド,糖,脂質などの生体分子に特有の高次構造や分子認識能を生かしつつ,これら生体分子の構造や性質を化学的に改変し,新しい機能性材料,バイオマテリアルあるいは医薬を創製する研究も行っている。
疾病関連遺伝子の発現を効果的に抑制するアンチセンス核酸やsiRNAなどの核酸医薬の合成を行っている。特に,リン原子の立体化学が厳密に制御されたリン原子修飾核酸医薬の開発に力を入れている。新しい反応や化合物のデザインには,計算科学を積極的に取り入れ,理論的なアプローチも行っている。
核酸医薬の効率的なDDS構築を目指し,二重鎖RNAのメジャーグルーブに選択的に結合してRNAを安定化する,新しい構造と機能を有する人工オリゴ糖の合成を行っている。
二重鎖RNAに選択的に結合してRNAを安定化し,核酸医薬のDDSに応用可能な新規カチオン性人工ペプチドの合成を行っている。また,二重鎖DNAに塩基配列特異的に結合し,転写の過程を阻害する新しいアンチジーン分子(ペプチド核酸)の開発を行っている。
重篤な感染症を引き起こす病原性細菌や寄生性原虫の表面などに存在する糖-リン酸繰り返し構造を有する糖鎖は,抗体に認識されるエピトープであり,ワクチンの候補分子として有用である。これまで化学合成が困難であり,安定性に問題のあったこれらの糖鎖や,そのリン原子修飾アナログを立体選択的に合成する新しい手法の開発を行っている。