研究について

研究について

脂質は生体膜構成成分、エネルギー貯蔵源、シグナル因子、生体バリアとして働く生体物質です。脂質は遺伝子に直接コードされておらず、その量は様々な脂質代謝酵素によって制御されています。我々は生体膜リン脂質に着目し、その生物学的重要性の解明や、疾患の病態理解を目指した研究を進めています。

  • 皮膚老化の仕組みの解明と皮膚老化制御法の開発

表皮では、日々、新しい細胞が生まれ、古くなった細胞は体表よりはがれ落ちていきながら、一定の状態を保っています。これは、表皮を作る大元となる幹細胞の増殖と分化が緻密に制御されているためです。表皮の幹細胞の機能は加齢に伴い低下していき、このことが皮膚老化の一因となっています。また、表皮の内側にある真皮では、線維芽細胞がコラーゲンなどの細胞外マトリックス成分を産生し、皮膚のハリや弾力を保っており、この線維芽細胞の老化も皮膚の加齢性変化に関わっています。私たちは、表皮の幹細胞と、真皮の線維芽細胞における細胞膜リン脂質の働きに着目して皮膚老化のメカニズムの解明と皮膚老化の制御を目指した研究をしています。

  • 「上皮細胞らしさ」の制御による臓器線維症やがん悪性化抑制法の開発

上皮細胞は体の表面、臓器の内表面を覆う細胞です。上皮細胞が「上皮細胞らしさ」を失うことは、臓器線維症やがんの浸潤・転移に関与しています。特発性肺線維症は診断後3~5年で死に至る疾患であり、他の臓器の線維症についても未だ根本的な治療法は確立されていません。また、がん細胞は「上皮細胞らしさ」を喪失することで、高い運動能を獲得し、浸潤・転移を起こします。このように「上皮細胞らしさ」の喪失は我々の命を脅かす重篤な疾患に深く関わるため、「上皮細胞らしさ」を理解することは、これらの疾患の克服に向けての重要な課題となります。私たちは最近、細胞膜リン脂質が「上皮細胞らしさ」の維持や決定に重要な役割を果たすことを発見しました (Nature Commun. 2022)。そこで、細胞膜リン脂質の量をコントロールすることにより、臓器線維症やがんの悪性化を抑制することを目指して研究を行っています。

  • 皮膚バリア異常を伴う皮膚疾患におけるリン脂質代謝酵素の役割の解明

皮膚は外界と体内を物理的に遮断し、外部のさまざまな刺激から体内を守るバリアとして働く組織です。皮膚のバリアとしての働きは、皮膚最外層に位置する表皮によるものです。表皮は表皮細胞が積み重なった層構造をしており、表皮角化細胞の増殖、分化の厳密な制御がその構造やバリア機能の維持に不可欠です。我々は、表皮バリア形成において、リン脂質代謝酵素が重要な役割を果たすことを明らかにしてきました (Nature Commun. 2012, Cell Death Differ. 2017)。そこで、このリン脂質代謝酵素と皮膚バリアの異常を伴う皮膚疾患の関連についての研究を行っています。