応用力学研究室での研究テーマ

昔のことになってしまいますが,1990年前後,私は東京工業大学の大型計算機で数値計算を行い,学位論文をまとめていました.
このとき,利用可能な主記憶領域は32MB程度だったと思います.
メモリ32MBなどは,いまのPCよりも格段に少ない容量ですが,当時はそれでも大容量のメモリが使えるようになったと思い,2Dのダム-貯水系の振動の計算モデルの構築を行いました.
それから約15年程度経た後,東京理科大学では高速並列計算機のサービスが始まり,利用可能な主記憶容量は32GBを越えました.
約15年で利用可能な主記憶容量は約1000倍を越えたということになります.
東京理科大学で32GBの主記憶容量の利用が可能になったことで,私にとっては今の研究テーマを行うための期が熟した感がありました.
ちなみに,現在研究室で運用している高速計算機はLinuxのOSを用いて,主記憶128GB 16 coresです.
今年はさらに1TBの主記憶容量の計算環境の構築を検討しています.
メモリの低価格化は,ひとつの研究室だけで,こうした計算機環境を運用できる時代をもたらしたのだと思います.
大規模メモリを用いた計算が可能になるということは,数値計算モデルをより大規模にすること止まらず,新たな計算手法を展開する動機になると思います.
利用可能なメモリが少なければ,とても実現できなかったような計算手法,メモリを消費するという贅沢さのためにあまり着目されなかった計算手法が,実は現象の解明に大きな可能性を持っていたことが分かったなどという,そのような時代が来ているのだと思います.

応用力学研究室で,着目したものは領域積分方程式の数学的な特性でした.
そして,それを用いて弾性波動を数値解析することでした.
常識的には,領域積分方程式を連立方程式に帰着させれば,大規模な行列が生成され,領域積分方程式は数学的には魅力的でも,現在の計算機環境では,なかなか解くことは難しいと思います.
しかし,2005年前後まで,応用力学研究室で研究を続けてきた弾性波動論を用いると,領域積分方程式の姿は一変するのではないかと,今から5年ほど前に考えたのでした.

ここでは,研究室で検討を続けてきた弾性波動論と,その応用である領域積分方程式について,わかりやすく論じたいと思います.
しかし,ここまでに至る道のりでは,多数の研究室の学生の献身的な努力に言及しないわけにはいかないと思います.
多くの,困難と失敗が,多くの成果をもたらしたと思います.
以下に主要な論文を列挙しますが,たとえ論文著者に名前が刻まれていなくても,多くの学生の努力がそこに根付いています.
以下,2000年以降の研究室での主要な発表論文を列挙します.
海外に向けて発表したものに絞ります.

Touhei, T.: A boundary-volume integral equation method for the analysis of wave scattering, Coupled systems mechanics, Vol. 1, No.2, 2012

Touhei, T. and Kuranami.K.: A fast integral equation method for elastic wave propagation free fom mesh and coefficient matrix, 48th Annual Technical Conference of Society of Engineering Sciences, North-Western University, 2011.

Touhei, T.: A Fast volume integral equation method for elastic wave propagation in a half space, International Journal of Solids and Structures, Vol. 48, 2011, 3194-3208

Touhei, T.: Wave Propagation in materials for modern applications, Edited by A Petrin, Chapter 1, In tech, 2010