Hashizume Laboratory
Department of Industrial Chemistry, Faculty of Engineering, Tokyo University of Science

研究紹介

Eco-Friendlyなハイブリッド材料の開発

 骨や歯など生体における有機−無機ハイブリッドは、有機分子を足場とした水溶液からの無機結晶生成(バイオミネラリゼーション)によって優れた特性をもつそれらの構造が形づくられています。当研究室では、この生体のシステムを溶液化学反応として理解し、その原理に基づいた人工反応系を構築して環境低負荷なハイブリッド作製法として利用しています。またゾル-ゲル法など他のウェットプロセスによる無機物の形成反応も有機物との複合化において有用であり、それらの手法を駆使して効率よく有機−無機ハイブリッドを作製するための手法の開発を行っています。特にハイブリッドにおける有機成分側のナノレベル、分子レベルでの表面デザインに重点を置き、従来不可能であった組み合わせでの複合化の実現や、これまでにないナノ構造や機能をもつ有機−無機ハイブリッドの作製を目指しています。
 また、有機−無機に限らず、有機−金属のハイブリッド材料や、有機物同士のハイブリッドにも注目して研究を進めています。手法だけでなく、原料についても天然由来の材料や環境にやさしい材料を活用することを意識しています。
 このようにして得られる種々のハイブリッド材料は、医用材料や構造材料などさまざまな分野への応用が期待されるため、その可能性を実証することも目標としています。学内および学外の各分野における専門家と積極的に共同研究を行っており、当研究室の学生が他研究室で実験を行う場合もあります。
 有用なハイブリッド材料を開発することと同時に、これらの研究を通じて「ナノレベル、分子レベルでの設計により、目に見える大きさの材料の構造や機能が制御できる」ことを実証していくのが私たちの目標です。

バイオミネラリゼーションの原理を利用した材料開発 

 
 ヒト血漿の無機イオン組成を模倣した溶液(擬似体液)を用い、種々の有機物からなる表面へのヒドロキシアパタイト(HAp)析出について検討しています。必要に応じて用いる有機物の化学合成も行います。また得られたハイブリッド材料の骨修復材料や細胞培養基材など、医用材料としての可能性についても評価を行っていきます。テーマの一部を以下に紹介します。
・不活性な表面をもつ高分子材料へのHAp析出:高分子鎖の切断や共有結合形成など分子の化学構造が変化する反応を用いずに、アパタイトの不均一核形成に有効な官能基を材料表面に提示させる手法を確立し、また作製した材料表面のアパタイト析出能を評価していきます。
・有機分子を足場としたHAp析出における形態制御:擬似体液中に添加した合成ペプチドや高分子電解質など、種々の有機分子がアパタイトの結晶成長に与える影響を系統的に評価することで、有機分子の化学構造に依存したアパタイトの形態の自在制御を目指しています。
・HAp微粒子の作製と機能化:擬似体液からのアパタイト微粒子作製プロセスに蛍光性無機ナノ構造体や薬物など種々の分子を添加することで、それらの分子とアパタイトとの複合微粒子の作製を行っています。得られる微粒子は診断マーカーやドラッグデリバリーシステムなどへの応用が期待されます。
・多孔質高分子/HAp複合体の作製:温和な条件で多孔質性の生体高分子/HAp複合体を作製するための新手法の開発を行っています。得られる複合体は細胞培養のための三次元足場材料として期待されます。
主な論文

  • J. Mater. Chem. B 2016, 4(21), 3651–3659.
  • Colloids Surf., B 2015, 130, 77–83.
  • Chem. Lett. 2012, 41(6), 588–590.

ナノハイブリッド界面作製のための表面修飾法の開発

 
 ゾルーゲル法やバイオミネラリゼーションに倣う手法などのウェットプロセスを用いて種々の高分子材料の表面における無機物との複合化を行っています。これは高分子材料がもつバルク(全体)の性質を保持しながら、その最表面だけに無機物由来の新たな性質を付与するという、高分子材料の機能化の手法として期待されます。既に大量生産技術が確立した汎用高分子にこれらの手法が適用できれば、低コストで新しい性質をもった材料の開発が可能となります。しかしながらポリイミドやポリテトラフルオロエチレン(通称:テフロン)など、エンジニアリングプラスチックとして有用な高分子の多くは表面の反応性が乏しく、無機物とのハイブリッド化には適さないという問題があります。この問題を克服するため、ナノレベル、分子レベルでそれら高分子の表面にさまざまな「工夫」をし、効率よくハイブリッドを作製するための新しい手法の開発を行っています。また、これらの技術を異種材料間の新しい接着法として応用する研究も行っています。
主な論文

  • Langmuir 2021, 37(14), 4403–4410.
  • Langmuir 2016, 32(47), 12344–12351.
  • J. Sol-Gel Sci. Technol. 2012, 62(2), 234–239.

生物資源のハイブリッド化による材料作製

 
 種々の生物が産生する多糖やタンパク質を生物資源としてとらえ、それらを構造材料として有効利用するため、フィルムや繊維などの形態に成型加工する手法の開発を行っています。架橋剤や分子の化学修飾を用いずに、水溶性の生体高分子から水に不溶な材料を得ることを目指します。得られる材料は100%天然由来であるため非常に高い生体適合性をもち、医用材料に限らず化粧品や食品産業などへの応用も期待されます。また上記手法によりアパタイトとの複合化も可能であると考えられます。最近ではそれらの材料が薬物モデル分子を内包、放出可能であることなども明らかにしており、また細胞培養基材としての可能性についても検討を進めています。
主な論文

  • ACS Omega, 2023, 8(6), 5607–5616.
  • Polym. J. 2022, 54(4), 571–579.
  • Polym. J. 2018, 50(12), 1187–1198.
  • Colloids Surf., A 2015, 484, 18–24.
  • Colloids Surf., B 2011, 84(2), 545–549.

作製したハイブリッドのバイオ応用 

 作製した種々のハイブリッド材料の医用材料としての可能性を検証します。生体内に埋植するための材料、ドラッグデリバリーシステム、骨形成に関係した細胞を培養するための材料、細胞の活性や分化を必要に応じて自在に制御する足場材料など、医用材料といっても多様な分野から成っており、作製した材料がどの分野での応用に適しているかを見極めていきます。材料としての特性評価にとどまらず、共同研究という形で細胞を用いた実験なども行っています。
主な論文

  • ACS Biomater. Sci. Eng. 2019, 5(11), 5688–5697.
  • Colloids Surf., B 2017, 160, 228-237.
  • Colloids Surf., B 2016, 147, 351–359.
  • Polym. J. 2016, 48(4), 545–550.

未利用生物資源からの有用物質産生

  多糖は豊富な生物資源として知られていますが、それらの有用物質としての利用はまだ十分とはいえません。多糖から生分解性高分子の原料など、有用な機能性分子を高効率で得るための手法を開発しています。またそのような分子を合成するためのハイブリッド型触媒の開発も行っています。

  • キチン由来糖アルコールの有用物質への変換 

 エビやカニの甲羅などから大量に得られるキチンの加水分解、触媒的水素化により得られる糖アルコールを原料とし、生分解性高分子の原料など有用物質へと変換します。
主な論文

  • Bull. Chem. Soc. Jpn. 2022, 95(7), 1054–1059.
  • Mol. Catal. 2020, 498, 111282.
  • ACS Sus. Chem. Eng. 2019, 7(17), 14883–14888.
  • グルコースの有用物質への変換のための触媒開発 

 地球上に豊富に存在するセルロースの加水分解物であるグルコースを逆アルドール反応や酸化反応によって有用物質に変換するための触媒の開発を行います。

 これらの研究の成果については上に挙げたものを含め論文や学会で発表しています。
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