RESEARCH
すべての免疫・血液細胞は造血幹細胞に由来します。
造血幹細胞は成体では骨髄に存在し、生涯にわたり免疫細胞を作り続けます。
免疫細胞が作られるメカニズムを明らかにするため、私達は主に次の3つのテーマについて研究を行っています。(図1)

① 免疫細胞の発生・分化
造血幹細胞からT細胞あるいはB細胞系列への運命決定を制御する分子機構の研究を行っています。特に、分化を制御する転写因子、エピジェネティック因子、細胞内代謝に注目し、これらがどのようなネットワークを形成しているのかを解明することを目指します。
② 免疫細胞の再生
私達は最近、造血前駆細胞を無限に増幅する方法を開発しました。この細胞を人工白血球幹(induced Leukocyte Stem: iLS)細胞と名付けました。iLS細胞は試験管内で無限に増殖するだけでなく、様々な白血球(リンパ球やミエロイド系細胞)を作る能力を持っています。このiLS細胞を医療に応用するための研究に取り組んでいます。
③ 免疫細胞の老化およびがん化
免疫細胞の分化や維持に異常が生じると白血病や悪性リンパ腫などの血液のがん(造血器腫瘍)になります。また、免疫細胞が老化すると免疫系が正常に機能しなくなり感染症やがんになりやすくなります。このように転写やエピゲノム制御が破綻することによって起こる白血病の発症メカニズムや免疫細胞老化の研究を行っています。
もっと詳しく(研究者向け)
1. 造血幹細胞からリンパ球への分化制御機構(図2)
リンパ球を含むすべての免疫細胞は造血幹細胞から作られます。その過程で多能性の造血幹細胞は徐々に分化能が限定されていき、最終的にT細胞あるいはB細胞にしかなれない前駆細胞に運命決定されます。この運命決定は様々な転写因子やエピジェネティック因子によって制御されていますが、詳細は明らかではありません。私達は最近多能性の人工白血球幹(iLS)細胞を開発しました。そこでこの方法を用いて、転写因子やエピジェネティック因子、細胞内代謝に注目し、分化を制御する分子機構の研究を行っています。(図3)

2. ポリコーム群タンパクによるリンパ球分化制御(図4)
ポリコーム群(PcG)タンパクは代表的なエピゲノム制御因子の一つであり、幹細胞の維持や発生、分化制御に重要であることが知られています。私達は以前にPcGタンパクの一つRING1A/BがT細胞の運命維持に重要であることを報告しました(Ikawa et al. Genes Dev 2016)。さらに最近、別のPcGタンパクが造血幹細胞からリンパ球系列への分化決定に必須であることを見いだしました(未発表)。PcGタンパクは急性骨髄性白血病やT細胞性白血病など様々な造血器腫瘍に関与することが示されています。そこで、これらPcGタンパクを中心にエピゲノム制御が免疫細胞の分化や運命維持に及ぼす影響を明らかにすることを目指しています。
3. iLS細胞を用いた免疫細胞療法の開発(図5)
造血幹細胞は生体外に取り出すと通常は分化していまい、未分化なまま維持するのは困難でした。一方、私達が開発したiLS細胞は多能前駆細胞として試験管内で無限に増幅します。iLS細胞はT細胞やB細胞、ミエロイド系細胞など様々な白血球への分化能を維持しています。従って、ヒト造血幹・前駆細胞から作成したiLS細胞を様々な免疫細胞へ分化させることにより、大量の免疫細胞を得ることができます。そこで、iLS細胞を免疫細胞療法に応用するための基礎研究を行っています。