2015年に採択されたパリ協定によって世界のEV化の流れが急加速しています。
現在販売されているEVは数多くの課題を抱えていますが、走行中ワイヤレス給電は,道路にコイルを埋設し道路からワイヤレスで走行中のEVに電力を送るという新技術であり、現在EVが抱える課題を数多く解決します。
これにより航続距離が拡張され、搭載するバッテリー容量の削減につながります。道路にコイルを埋設するというインフラ面での初期投資はあるものの、長期的に見ると回収は容易との研究も数多くされているため、未来の真のカーボンニュートラルに大きく貢献します。
普段は様々なサイズのコイルを作成し、走行中給電を模擬することのできるベンチを用いて検証します。今年度は我々居村研究室が保有する国内最長(約100m)の走行中ワイヤレス給電用の走行路にて、より実走行に近い形で、実車実験を行っています。
走行中ワイヤレス給電の実用化に向けて我々が世界の先駆者となれるよう日々研究を行っております。
環境に優しいモビリティとしてEVが注目されていますが、動作に必要な電力の発電方法もエコである必要があります。また、太陽光発電(PV)には、日中に電力が過剰に供給されてしまうという問題があります。
これらを解決するため、道路近傍に設置されたソーラーパネルから走行中の車両に給電する方法を提案しています。
研究では、系統に接続するシステムや、系統から独立したシステムを提案し、屋外での自動車を用いた実験で検証を行っています。
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系統連系型の太陽光発電を利用することで、太陽光発電の発電量が不安定な場合でも、走行中給電を行うことができ、提案システムの実現可能性と有効性を実験により検証をしている。
系統に接続する設備(高圧受変電設備)は非常にコストがかかるため、すべての走行中給電路を系統に接続するのは現実的ではない。 そこで、系統に接続しない完全独立型のシステムが必要になる。
走行中ワイヤレス給電についての技術的な研究は世界でも数多く行われ始めていますが、実際に地面に埋めた研究は世界的にもめずらしく、非常に意味のあるものです。
居村研究室では走行中ワイヤレス給電の実用化に向けて、コイルに用いられる素材の検討をし、アスファルトへの埋設や鉄筋コンクリートへの埋設など様々な埋設方法でコイルを埋設して、コイルの電気的評価と機械的評価を行っています。
日本国内の道路はアスファルト道路が最も普及しているため、アスファルト道路への実用化に向けてコイルの埋設方法を検討している。 実施内容 アスファルトにコイルを埋設することでコイル特性が変化してしまうため、電磁界解析等の事前検証に基づいて埋設に適したコイル設計や埋設方法を検討し、 実際にアスファルト舗装内に埋設深さ、コイル形状等の条件を変えた複数個のコイルを埋設し、コイル特性、伝送特性、機械的特性を測定する。
世界の道路では鉄筋コンクリート製の道路を使用しているところもあるため、鉄筋コンクリート道路に対しても実用化に向けてコイルの埋設方法を検討している。 課題 埋設時のコイルの特性悪化、鉄筋(金属)による影響があります。 →高効率かつ大電力を実現するために、これらを低減する必要があります。 提案手法 鉄筋を絶縁することにより、鉄筋の影響を低減をします。 測定結果 抵抗値を約0.74倍、Q値を約30 %改善することに成功しました。
ワイヤレス電力伝送では基本的に送電側と受電側の二つのコイルを用いて磁界を介して電力を送ります。使用するコイルの組み合わせは、大きく電力伝送能力を左右するため、最適化は非常に重要なテーマです。MATLAB等を用いた数値解析や、電磁界解析ソフトを用いて最適なコイルを模索しています。
現在世界で用いられているコイルのほとんどはショート型コイルが使用されています。ショート型コイルは共振コンデンサをコイルに接続して電力伝送を行い、比較的周囲の環境に左右されにくいコイルです。 一方、オープン型コイルはコイル内で層を形成し、共振コンデンサの役割を持たせたものです。 ショート型コイルと比較して周囲の環境に左右されやすいという弱点がありますが、コイルのコストをコンデンサを使わない分抑えることができます。 居村研究室では世界的にも珍しくオープン型コイルの検討を積極的に行っています。
エッジワイズコイルは断面積が長方形の銅板を短辺方向に巻いたコイルです。 このコイルはリッツ線を用いた通常のコイルと比較して、薄型で安価につくることができ、高い放熱性を持つという特性を持ちます。 エッジワイズにおいても性能向上のために検討を行っています。
EVへの走行中や停車中のワイヤレス給電は数十kWの高電力での給電となります。充電の際大きな磁界が周囲に広がり(漏洩磁界)、人体への悪影響も考えられます。漏洩磁界抑制技術は、将来走行中ワイヤレス給電が街を埋め尽くすためになくてはならない技術です。我々研究室では様々なコイルの形状や、磁界を抑制するためのコイルの検討を行っています。
同じ送電コイルが一直線上に並んで設置されている走行中給電路を想定し、進行方向へ隣接する送電コイルへ印加する電圧の大きさと位相を最適化することで遠方の漏洩磁界低減を行っています。 車体に取り付けた受電コイルへ十分な電力を送りつつ、周囲へ生じる遠方の漏洩磁界を規制値以下へ低減することを目標としています。
走行中給電ではシステムが常に移動し変化し続けるため、適切な制御を用いてシステムの効率化や安全性の向上を目指しています。 制御手法には、車両の有無を検知したり、結合の状態を推定するものや、複数のコイルを使った給電を目指すものがあります。
既存のDWPTのシステムにおいて車両の存在しないときにも送電コイルに電圧を印加すると漏洩磁界や待機損失の大きさが無視できなくなってしまうことが問題点として挙げられる。 そこで,車両の有無に応じて各送電コイルにかかる電圧を切り替える必要がある. そのためには、車両を送電側で検知し、電力伝送を行う送電コイルと電力伝送を行わないコイルの決定が不可欠となる。 制御手法 車両の有無を検知し、車両の存在する送電コイルにのみ電圧を印加し、 車両の存在しないときに電圧を印加しないまたは待機損失や漏洩磁界を無視することができる小電圧を印加しておくことで 1つのセグメント内における電力伝送の効率を向上させることができる。
消費電力の大きい大型電気自動車のために、受電コイルを複数搭載することで受電電力を増大させる研究を行っています。 これにより乗用車と送電設備の互換性を持たせ、導入コストを小さくできます。 複数の受電コイルで受け取った電力を1つのバッテリーに入力する際の回路構成の違いにより、電力伝送特性にどのような差異が現れるかを検証しています。 受電コイルを複数にし、大電力化することで漏洩電磁界(EMI)の増加が懸念されます。実際にどのような影響があるのか、どのようにすれば提言することができるのかについて検証しています。
DWPTシステムは様々なパラメータが変化するため、設計時に考慮が必要になります。パラメータ変化に対して強靱なシステムの設計方法や、パラメータ変化の許容量を可視化する方法を提案しています。
コイルパラメータの変動 製造時の誤差、経年劣化、周囲の環境の影響 ⇒理想的な特性が得られなくなるため、電力を補償する必要がある 受電側のみの制御による補正 従来法の欠点 ×送受電コイルの間で通信を用いる ×送電も受電もどちらも使って制御する必要がある 特に送電側は地中に埋めるため、システムを簡易化したい! ⇒制御する場所を受電側のみにし、送受電間で通信を用いなくてもよいシステムの提案 カラーマップを作成し、伝送特性を評価
WPTの普及に必要な互換性ですが、有線環境と異なりWPTではコネクタ形状の制約がありません。そのため、送受電間の伝送特性を把握することで、要求水準を満たす伝送が可能かどうか( = 互換性)を確認出来ます。 本テーマでは、難しい式を見ること無く直感的に互換性を把握するため、伝送特性をマップ上に可視化できる「インピーダンスマップ」に関する研究をしています。伝送可能な最大電力や伝送効率など、WPTシステムの設計に必要な要素は数多くあり、それらをインピーダンスマップに包含していくことでWPTシステムの設計ツールとしての完成度を高めます。 インピーダンスマップは、下に示すように「電力マップ」と「Zref軌跡」という2つのマップを合成する形で構成され、2つのマップの位置関係に注目することで互換性を確認することが出来ます。
ワイヤレス電力伝送(Wireless Power Transfer:WPT)はワイヤレスで電力を送る技術です。電気自動車やQi規格などの小型デバイスに限った物ではなく、あらゆる電子機器を無線化することが可能です。
つまり人間の皮膚を介して電力を伝送することも可能になります。居村研究室では光線力学療法(Photodynamic Therapy : PDT)を用いてがん細胞を死滅させる研究を行っています。
体内にデバイスを埋め込んで、外部から連続的に電力を伝送し実現させます。
ワイヤレス電力伝送でよく用いられるのが磁界方式ですが、実は電界を使うことによって電力を送ることも可能です。磁界方式ではコイルを用いますが、電界結合方式では極版を用いるため、構造が簡単という利点があります。
伝送電力は磁界結合方式と比べて小さいですが、国内外で大電力化の研究がされ始めており、まだまだ可能性を秘めた技術であるといえます。
ワイヤレス電力伝送は空気中だけでなく、宇宙や水中でも可能です。居村研究室では電界結合を用いた水中でのワイヤレス電力伝送の検討を行っております。将来的にはAUV等の無人探査線への適用を想定しています。
ワイヤレス電力伝送には磁界結合方式と電界結合方式があり、両者には重さやコスト、送電距離や金属異物・誘電体異物による影響のちがいがあるため、用途によって使い分ける必要があります。
また、回路トポロジーによっても送電特性が異なるため、統一条件下で特性を公平に評価することにより、最適方式・回路選択のための設計理論の構築を目的としています。
月面ローバでは夜間に氷点下180度になってしまうため太陽光で発電した電力が配線で熱として逃げてしまう。 これを電解結合方式を用いたWPTで解決できる。また、金属製断熱材(MLI)越しの給電ではスリットをいれることで悪影響を低減することも成功した。
これまでに上げた研究内容は一部です。その他居村研究室で取り扱っている研究内容を紹介します。
クロスカップリング:通常は一つのコイル同士の結合で電力伝送を行いますが、ワイヤレス電力伝送は一つのコイルから複数のコイルに電力を送ることも可能となります。一方で、意図しない結合が生じてしまうといった側面もあります。このような現象の追及や解明を行って有効活用する研究を行っています。
異物発熱:ワイヤレス電力伝送では結合しているコイルの間に金属は挿入しない。もし金属が存在した状態で電力伝送を行うと、急激に金属異物が発熱し、発火につながりかねない。電気自動車へのワイヤレス給電を想定すると、しっかりと異物の存在を検知し取り除くことが必要である。異物発熱のメカニズムや異物の検知方法について研究している。
ロボット給電:IoTがますます充実し私たちの暮らしが豊かになる中で、私たちが持っている電子デバイスを自ら充電する必要がなくなる未来が来るかもしれない。海外では部屋にあるデバイスに勝手に自動で充電するといった研究もあるが、居村研究室では電力を供給してくれるロボットが自ら電力を必要とするデバイスを検知し、給電を行うといった研究を行っている。