自己免疫疾患発症機構の解析

西城 忍

生体において、外からの進入物を攻撃し自己を守る役割を担っているのが免疫機構である。免疫系には自分自身に対する攻撃を避けるために巧みな調節機構が存在するが、その調節機構が破綻し自己反応性の細胞や抗体が出現した状態が自己免疫疾患である。私達のグループでは、何が原因でその調節機構が破綻するのか、分子レベルで原因を追及することによりこの忌まわしい病気の撲滅を目指している。

1. 慢性関節リウマチ(RA)と動物モデル

RAは自己免疫疾患の一つで、関節病変を主徴とする多発性・進行性の全身性疾患で、患者は人種にかかわりなく患者は世界中に分布しており、日本では約70万人の患者がいると見られている。発症には遺伝的要因と環境要因が関与すると考えられているが、実際にはその両者が複雑に絡み合って炎症反応を誘起し、現在はまだ不明な点が多い。従って、その治療法も対症療法的なものが多いのが現状である。この研究の遅れの一因としてこれまで適当な動物モデルがなかったことが挙げられる。しかし、私達は1991年に当研究室のIwakuraらが作製したHTLV-Ⅰトランスジェニックマウスがよいモデルマウスであることを見いだし、動物モデルの利点と近年の分子生物学の飛躍的な進歩を最大限に利用し新しい治療薬の開発に結びつく研究を行っていきたいと考えている。

2. RAとサイトカイン

RA患者の病変局所ではIL-1やIL-6、TNF?αといった炎症性サイトカインが高濃度で検出され、実際、これらのサイトカインを直接標的とした治療薬が開発され、効果を上げている。私達も前述のHTLV-Ⅰ-Tgマウスの炎症局所でこれらのサイトカインの発現が亢進していること、そのサイトカイン遺伝子を働かなくすることで、発症が抑えられることなどを見いだした。しかし、どちらもその治療効果は完全ではなく、マウスの場合、加齢と共に発症する個体がいることがわかっている。そこで、現在はその原因として新しいサイトカインが関与しているのではないかと考え、研究を進めている。