第2節で導かれたBiot-Savart-Likeな式
は、物理的ではないが正しい式ではあるということは既に記した。
そこで、この式について深く検討してみる。変位電流の項に着目すると次のように式を変形することができる。
(2行目の第1項でFaradayの法則、第2項で無限遠での表面積分を考えてゼロという関係を用いている。)
ここで、先に示した階層化の表からJが時間に関してlinear(Hemidemisemistatic)までであれば、Bもlinearであるので2階微分はゼロとなり、変位電流の項は消えてしまう。
このことから準静的な状態(quasistatic)(具体的にはJがlinearまで)では変位電流は磁場をつくらないと説明されることがある。この言葉には注意が必要である。これは準静的な状態でないならば、変位電流は磁場のsourceであると誤解をしてしまう可能性がある。しかし、前にも記したが、磁場のsourceは電流であり変位電流はsourceではない。そのため、準静的ではなく時間変化が非常に速い場合であっても、変位電流が磁場をつくっている訳ではない。単にこの形式では変位電流の項が残るということを意味しているに過ぎないのである。
では、実際にこの式は有用なのか?
多くの場合、変位電流の項は真電流の項に比べて非常に小さいかゼロになってしまうため、Biot-Svartの法則に変位電流を含めてもほとんど無視できる。一方で、場の変化が非常に速い場合は無視することはできないが、ある場所rでの磁場を求めるために全空間の電場を求めなければならず、その電場を求めるためにはFaradayの法則から全空間の磁場を求めなければならず、結局求めることはできない(Coulombの法則は適用できない)。
このように、厳密には変位電流も含めなければならないが入れたところで役に立つ場合は限られている。