第1節で考えた問題を解消するために、定常電流が流れているときに成立するBiot-Savartの法則[Ref(1)p215]
のようにsourceと磁場の関係が明示される式が、非定常電流が流れている場合にも成立する、いわば一般化されたBiot-Savartの法則が導けないかについて検討する。
Maxwell方程式
から磁場のdivergenceとrotationが与えられているので、ヘルムホルツの定理[Ref(1)p555]より
が得られる。これは、Biot-Savartの法則に変位電流の項を加えたような、Biot-Savart-Likeな式である。(この意味で、Biot-Savartの法則に変位電流の項を加えるべきか?ということが第7節で議論されている。)
この式からはある位置r、時刻tでの磁場は同時刻tでの全空間の真電流と変位電流によってつくられていると解釈することができそうである。
しかし、この解釈は不十分である。このことを理解するために、下の図を見て欲しい。
この図から、位置r´にある電流Jが位置rに磁場Bをつくる場合には、rとr´が距離だけ離れているために、電流の寄与はすぐには伝わらず、時間を要するということが分かる(場は無限大の速度では伝わらず、光速cで伝わる。)。したがって、式の両辺が同時刻であるのは物理的ではなく、時刻tよりも前の時刻trでの電流が時刻tでの位置rの磁場に寄与していることが理解できるように、右辺は時刻trで表現されるべきである。このように、この式では物理的に正しい内容を読み取るのが困難であるということが分かる。
この点は近接作用ということを考えなければ気付かないことであり、非定常(ρとJが時間に依存する場合)の状態では、そこから導かれる遅延(retardation)という概念が重要となることが理解できるであろう。(電磁気を勉強するときには近接作用という観点を忘れがちだがしっかり意識しておくとよい。)
しかしながら、ここで得られた式は物理的ではないにせよ数学的に正しく導かれた式であり、実際に計算できれば正しい磁場を与える。ただ、残念なことに遅延が表には出ずに奥に隠されてしまっていて、物理的に意味を解釈するには不向きな形式となっているのである。
→(発展)CoulombゲージとLorentzゲージ
また、ここで得られた式の有用性については第7節で検討する。