第3節で示した一般化されたBiot-Savartの法則から磁場のsourceは真電流であることが分かった。とすると変位電流とは一体何なのであろうか?この章では、第1章で提起された問題について答えを与える。
一般化されたBiot-Savartの法則がそうであるように磁場のsourceが真電流ということは、磁場は真電流のみで表せるはずであり、変位電流は必要ないはずである。しかし、第1節の例で示したようにAmpere-Maxwellの法則では積分面の取り方によっては変位電流の寄与を計算に反映させなければならない場合もあった。
では、この2つの法則のどこにこのような差異を生む原因があるのだろうか?
これを明らかにすれば変位電流がどのような役割を果たしているかについて何らかの答えが得られるであろう。
一般化されたBiot-Savartの法則
では、磁場のsourceである真電流の寄与を全空間において計算に含めている。そして、右辺は遅延時刻trを用いている。これは一般化されたBiot-Savartの法則がsourceとそれによってつくられる場という関係を示しているから全空間の寄与を含めるのは当然であり、また、遅延が現れるのは異なる位置を考えているので、近接作用から当然であると理解できる。
一方で、Ampere-Maxwellの法則
では、amperian-loopとそれを縁とする任意の閉曲面を考えて積分計算をしている。そして、両辺は同時刻で計算されている。これはAmpere-Maxwellの法則がある時刻、ある場所(積分形では拡がりを考えている。詳しくは→(補足へ))での磁場と真電流と変位電流の状態を示しているに過ぎず、sourceと場という関係にはないために全空間での積分もしないし、遅延も現れないと理解できる。
また、任意の閉曲面を考えて積分計算をしていることから、必ずしも真電流の寄与が全て計算に反映されるとは限らないし、面の取り方は無数にあるから、寄与がどの程度計算に反映されるかも常に変化する。
しかし、真電流の寄与が反映されない場合であったとしても、その場合には真電流とは独立した存在である変位電流の寄与が反映されるようである。どうやら、両者は互いに独立しているが相互補完的な関係があるということが読み取れる。
→(補足):Ampere-Maxwellの法則の微分形と積分形
ここで、第1節の例を振り返ってみよう。(A)のように面をとれば、
(A)
真電流はコンデンサーの間を流れておらず、真電流の寄与は直接に計算には反映されない。しかし、変位電流の寄与は計算に反映される。
一方で、(B)のように面をとれば、
(B)
真電流のIとiは面を通過し、真電流の寄与は計算に直接反映される。しかし、変位電流の寄与は反映されない。
このように真電流と変位電流の寄与が計算にどのように反映されるかは違うにもかかわらず、この2つのどちらでも同様な磁場が得られるというのはなぜであろうか?
これは、Ampere-Maxwellの法則では面の取り方が任意であるからであった。
では、この任意であるという点を支えているものは何であろうか?
これこそが真電流と変位電流である(どちらか一方だけでは任意の面では成立しない。)。つまり、この任意という点を満たすためにAmpere-Maxwellの法則では互いに独立した存在である真電流の項と変位電流の項が両方とも必要であるということである。
しかし、両者は磁場のsourceである真電流と磁場のsourceではない変位電流という点で違いがある。よって、両者は対等ということではなく変位電流はその寄与が計算に含まれなかった真電流の代理という役割を果たしているということが分かる。
ここまでの議論を微分形でまとめてみる。
Ampere-Maxwellの法則
での真電流と変位電流の関係は「真電流Jはrotaionが計算される場所での電流を意味し、変位電流JDはそれ以外の場所での真電流の代理である。」と表現される。その意味で一見すると無関係で互いに独立している真電流と変位電流の両者は必要とされるのである。